□ Open The END 視点:小澤
これを読んでいるということは、あたしはもう既にこの世にはいないのかな。
でも、二人があたしのパソコンのパスワード知っているかは……一応ヒントは遺しているけど見つけたら嬉しいな。それはそうと、これを見るということは自ずとコムの生きてきた証は全てかなぐり捨てる、本当に見失われた彗星になることは了解してね。
コムは解散しようと思っている。
それは遅かれ早かれ考えていた、みんなも仕事が忙しいし、貴重な休日をあたしのために使ってくれることにだんだんと申し訳なくなっていたからね。
でも楽しかったのは本音だよ。出会えたことにも感謝している。
だけどいつまでも続けるには無理があるかなと思ってきた。だから解散をしたい。
というのはあくまで建前。
本当の理由は別にあるんだ。
少し話が逸れるかもしれないけど、あたしは今まで生きていた日におじいちゃんは大切な存在だった。
亡くなる前に、あのスタジオを使っていいと言ったのは別れ際の最期の会話だった。
だからあたしは新くんや美咲ちゃんを巻き込んであそこでコムができたんだよね。
そんなある日常が続いた数年後のことだった。
本当にたまたま、机に一枚の紙が入っていた。生前におじいちゃんが残したものみたいだけど、壊れたスピーカーのボタンを順番通りに押したら秘密の部屋が開いて、そこにへそくりがあるから好きに使ってくれという内容だった。
半信半疑のなかだったけど、本当に扉が開いたから、あたしはまんまと釣られてしまった。
向かった先で知ったのはおじいちゃんの過去だった。
日記があって、警察として悪い警察を殺していた苦悩があった。しかもそれは警察をやめてからも。
あの時、おじいちゃんがスタジオに籠って何かを書いていたのはこの部屋でのあらましだったのかもしれないと気づいてしまった。思えばあの時のおじいちゃんは笑っていたが、どこか哀しいものを感じた。併せて、彼の死は心不全だったけどストレス起因によるものなのかもしれないとそれとなく思ってしまった。だって健康だったはずのおじいちゃんが急に死ぬなんてってのはずーっと前から疑問にあったから。例え間違いでもそうだと思わざるを得なかったな。
さらに読み進めると、警察を辞めた後の殺しにはどうやらあたしも絡んでいた。
おじいちゃんはあたしを守るためにやりたくもないことをやらされ続けたと知った。
手を汚してまであたしのことを守っていたことを知ると心が苦しくなった。そしてこれを誰にも話せないとわかるとこの気持ちを背負うのはあたしだけのものになっちゃった。そこから、二人や家族、同僚以外を信じることが怖くなったなぁ。
またいつしか誰かに常に見られていると思うようになって、生きた心地なんてもってのほかだった。
そんなあたしにとどめを刺したのは脅迫メールだった。4月ちょうど、年度が切り替わる頃だった。
『この家を明け渡せ、さもなくば殺す』
シンプルなのに、あの部屋を見た時点であたしは逃れられなくなってしまいました。
あたしはいろいろと考えて、考えて、考えて。
だけど今できることとすれば、部屋を明け渡すしかないということだった。そうなると自ずとコムの活動をする上での環境作りからスタートすればいいが、それ以前にあたしはおじいちゃんの秘密、いや日本の秘密を知ってしまったためにこれ以上君たちと一緒に過ごせるかという自信すら失いました。
死ぬのかなと思った。ただそこで沸いたのは『いっそ死ぬなら、ただで死ぬのは嫌』だった。
コムの終焉と共に、最期の悪あがきとして、おじいちゃんに背負わせたもの全てを白日の下に戦いを選びました。
これを書いている時点で、全ての準備が終わったよ
鳥滸がましいけど、あたしは2人が【あたし】を理解してくれると信じている。だからあたしも2人を、特に新くんにはたくさん苦労を掛けるかもしれないけど託すね。
そう言えば、八雲の方に探偵がいたと聞いたことがあるけど訪ねてもいいかもしれないね。
美咲ちゃんは背負うにはまだ若く脆い、それで引きずるのはあたしも嫌だからね。
最後に、新くん、美咲ちゃん。
これは無茶なお願いかもしれないけど、音楽を辞めないでほしい。
もし、音楽をしてあたしを思い出し苦しむのなら強要はしないよ。
でも私は二人とも優れた才能を持っている。あたし抜きでも頑張れると思う。
だから、君たちの音楽がこの世界に鳴り響くと嬉しいな。
たとえ小澤 光の過去を連れまわすつもりでいるなら、あたしはそれについていくよ。
じゃあこれで本当にお別れ。これを読んだということはコムの終幕で終焉だね。
奇しくもコムのRayが何者かわからないから万が一死んだとしても、あたしとRayを繋ぐものは無いから自然消滅と思われるだろうね。
SNSとかのアカウントは残るかな。でも今まで培ったデータはすべて消えるよ。
あたし抜きのコムはコムじゃない、それは君たちが一番にわかっていると思うからね。
短いようで長い間だったけど、あたしはとても楽しかったよ。
二人とも、ありがとう。
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