第一章:『荷物持ち』という名の誇り

 君は、やがて壁の外の世界で、必ずや心ない者から、あるいは無知な者から、こう揶揄される日が来るだろう。

 『荷物持ちサンプター』、と。

 彼らは言うだろう。「戦いもせず、ただ重い荷物を背負い、仲間の後ろに隠れている臆病者」だと。

 戦闘の最前線に立たず、泥と血にまみれる仲間を一歩下がって見ている我らを、彼らはそう呼ぶ。

 その時、決して恥じてはならない。怒りに声を荒らげてもならない。

 ただ、心の中で静かに胸を張り、彼らの無知を憐れみなさい。


 我ら『歩荷隊G.G.B.』の正式名称を、もう一度、その心に刻みなさい。

 『Guns&Gear Bearers』。そう、我らは運ぶ者ベアラーズだ。

 この言葉には運ぶという意味の他に、『耐える』、『支える』、そして『命を宿す』という意味があることを知らなくてはならない。


 職猟者が『戦う力』そのものであるならば、我らは『戦い続ける力』そのものである。

 伝説の狩人ハンターも、その手に持つ『槍』が折れればただの人だ。

 凄腕の煉魔術士も、その『触媒』が尽きれば詠唱うたえない。

 我らが運ぶものが尽きた時、その狩猟隊は全滅する。


 歴史上、砂漠の藻屑と消えた無数の狩猟隊の敗因は、その『槍』が鈍らだったからではない。その『大地』が、脆弱だったからだ。


 仲間の後ろに隠れている臆病者? 結構だ。

 我らは、職猟者の誇りも、焦りも、疲労も、恐怖も、そして彼らの命そのものも、彼らの代わりに『耐え』、『支え』、『運んで』やる。

 我らは、ただの『荷物持ち』ではない。

 我らは、仲間の命運を背負う者、『歩荷バッガー』である。

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