第二章:抜萃の技術

 我ら歩荷の真価は、その『背負子バックパック』にどれだけ高価な装備が詰まっているかでは決まらない。その中身を、いかにして完璧なタイミングで仲間に供給するかで決まる。


 我々は、背負子から荷物を出すことを『抜萃デバッグ』と呼ぶ。

 これは、我らの仲間が陥った危機的状況を、我らの支援によって取り除くという、極めて高度な支援技術であり、戦闘哲学である。


 三流の歩荷は、仲間に「包帯を!」と背後から怒鳴られて初めて、慌てて背負子を降ろし、その中をかき回す。当然、間に合わない。


 二流の歩荷は、「包帯を!」と叫ばれた瞬間、即座に取り出し、投げ渡す。これで及第点だ。


 一流の歩荷は、仲間が傷を負ったのを『見た』瞬間、叫ばれる前に、すでに包帯を『抜萃』し、投げ渡している。仲間は、自分が欲しいと思った瞬間に、それが手の中に在ることに驚くだろう。


 そして超一流の歩荷は、仲間の視線、敵の予備動作、戦場の地形、その全てを『観て』いる。仲間が傷を負うであろう状況を『予測』し、その仲間が回避行動を取るであろう着地点に、あらかじめ『抜萃』した包帯を、そっと転がしておくのだ。


 君の背負子バックパックの中身は、君の倉庫ではない。

 それは、君の思考と予測と思いやりが、物理的な形となったパレットだ。

 どのアイテムを、どの順番で、背負子のどこに詰めるか。雨蓋の裏か、右のサイドポケットか、左手で掴める一番下か。


 その『荷造りパッキング』の精度こそが、君の思考の精度であり、仲間の生存率を決定する、最大の武器なのである。

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