『歩荷のすゝめ ~背負うは【命】、届けるは【明日】~』

火之元 ノヒト

序章:背子を受け継ぐ君へ

 ようこそ、我が同胞。今日、この瞬間から君は『見習い歩荷バッガー』だ。


 翠点の安全な壁の中で育った君が、その背中に初めて『背子パック』を背負った時の感覚を、決して忘れてはならない。

 それは、ただの布と革と、詰め込まれた武具や薬品の物理的な『重さ』ではない。それは、この乾いた砂漠の星で『他者の命』を預かるという、精神的な『重さ』そのものだ。


 君の肩に食い込むそのストラップは、君がこれから守るべき『仲間ハンター』たちと君とを結ぶ『命綱』だ。

 君の一歩が遅れれば、その綱は切れる。君の判断が間違えば、その綱は仲間を『死』へと引きずり込む。


 『職猟者』が、翠点の『槍』として、未知なる脅威と対峙する存在であるならば、我らは、その槍を支える、広大で、忍耐強く、そして決して揺らがぬ『大地』である。

 どれほど鋭い『槍』も、『大地』なくしては立つことさえできず、くうを突くだけだ。

 そして『大地』もまた、『槍』がその平和を守ってくれなければ、やがては踏み荒らされてしまうだろう。


 我らは、互いを必要としている。

 だが、その関係性において、我らが担う役割こそが、生還という結果における土台であることを、片時も忘れてはならない。


 この書は、君がその『背子パック』を、やがては幾多の戦場を越えた歴戦の『背負子バックパック』へと成長させるための、我らが紡いできた、知恵と誇りのすゝめである。

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