第23話
少し経って、2回目のスタジオ練習にやってきた。
高槻フェスは結構大きなイベントだ。観客も結構多くなるだろうし、もっとみんなで合わせて完成度を高めたい。
「よーし、今日もいっちょやりますか!」
各自準備をして練習を始める。
白河さんは少しミスはしてしまったものの、すぐに立て直していた。
その後はミスらしいミスもなく順調な感じだった。
まあ2回目ということもあり、前回とは違いかなり落ち着いていた。
これはもう大丈夫だろう、俺は手ごたえを感じていた。
そして練習が終わった後、俺はみんなに新曲が出来たことを伝える。
「新曲出来たからちょっと聴いてみてほしいんだけど」
みんなに聞こえるように、スピーカーをONにして曲を流し始める。
「ねぇ、この曲、間奏長くない?しかもギター音がないんだけど」
「これさ、白河さんをイメージして作ってみた」
「で、白河さんこの曲のギターアレンジ、やってくれないかな?」
「え?でもわたしアレンジとかやったことなくて……」
「大丈夫、うまくできなくても弾いてて楽しいと思えるようにしてくれたらいいから」
――
また少し経って、何度目かのスタジオ練習。
「じゃあ新曲やってみよっか」
俺はみんなにそう声をかけるのだが。
白河さんの顔色が悪い、いい感じのアレンジができなかったのだろうか?
でもまあアレンジ自体初めてのことなのだ、よくなかったらみんなで話し合っていけばいい。
そう思いながら新曲の練習を始めた。
Aメロ、Bメロ、無難な感じだ。
……そしていよいよギターソロにさしかかる。が、そこにギターソロは入ってこなかった。
曲が終わった後、みんなが心配そうな顔で白河さんを見る。
「ギターソロ上手くできなかった?」
「……すみません、失望しましたよね。いろいろ考えたんです、でも全部どこかで聞いたことがあるようなフレーズで」
「そっか、まあまだ時間もあるし、焦らずに考えてみよう、俺たちも協力するからさ」
落ち込んでいる白河さんにそう声をかけたのだが、白河さんは泣きだしてしまっていた。
白河さんが涙を拭いながら口にする。
「すみません、もう一度新曲やってもらってもいいですか?」
「わかった、もう一回やってみよう」
Aメロ、Bメロ、さっきと同じだ。
ギターソロがくる、もう一度やりたいと言った白河さんは何かをやりたかったのだろう。
今度はギターソロでギターの音が響く。
どこかで聞いたことのあるようなフレーズ、これはエンドオブヒーローのギターソロにそっくりだった。
「だめ、なんです。何度考えてもこういう音になってしまうんです」
「……ごめんなさい」
「……わかった、今回この新曲はやらないことにしよう」
「白河さんが悪いわけじゃないからね、そもそも曲を作った俺に責任があることだから」
――
高槻フェスまで1週間を切った。
俺は自分のアコギを持って白河さんの家の方角へ歩いていた。ちゃんと話しておきたいことがあったからだ。
白河さんにメッセージを送る。
「今から少しだけ外出れる?」
「はい」
「近くの公園にでもいこっか」
「はい」
俺は白河さんと近くの公園へと向かう。
公園では、小学生らしい子どもたちが何人かで遊んでいた。
公園のベンチに座り、ずっと気になっていたことを口にする。
「ねえ、なんで白河さんは俺たちとバンドしたいと思ったの?」
「そ、それは、……みんながキラキラ輝いて見えたから、とても楽しそうだったから!」
「それで今、白河さんは楽しい?俺たちとバンドしていて輝ける?」
白河さんは今にも泣きだしそうだ。これは聞いておかなければならないと思った。
一緒にバンドをしていて楽しくないのであれば、輝けると思えないのであれば多分一緒にやっていても辛いだけだ。
もしかすると俺たち以外のバンドならそう思えることもあるかもしれない。
できることなら一緒にやっていきたいが、それは白河さん次第だ。俺たちが強要できることじゃない。
「……し、だって」
「……わたし、だって!」
「わたしだって!みんなみたいに輝きたい、もっと自由に楽しく弾きたい!」
「わたしはここにいるんだって!叫んでやりたい!」
「でも、でも!自信がないんです!」
「わたしには自分の音がわからない。ずっと誰かの音を真似してきただけで、自分で音を生み出すことができない」
白河さんはぐしゃぐしゃに泣きながら、自分の想いを吐き出した。
これだけの言葉を声にするのに、どれだけの勇気を振り絞ったのか。
多分、自分でもどうすればいいのか分からなくなっている、そんな気がする。
白河さんに俺の想いを伝えるにはどうすればいいだろう。うまく伝わるかは分からないがやらない後悔よりやって後悔したほうがいい。
俺は黙ってアコギをケースから取り出す。
「ら~ら~ら~」
適当にコードを鳴らしながら、思いついたメロディーを口ずさむ。
すると、俺たちに気づいた子どもたちが俺たちのほうにやってくる。
「おー、すげー、それギターってやつだろ?」
「もっとなんか弾いてくれよ!」
リクエストにお応えして子どもたちに流行っているであろう曲を歌ってみる。
「すげー、すげー!」
「ねえねえ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人なの?」
一人のマセた女の子がそう聞いてくる。
「うーん、恋人ではないかなぁ。でもすっごい大事な人、かな」
「えー、それ恋人っていうんだよ、みう知ってるもん」
みうちゃんという女の子はぷりぷりと怒っていた。
まあこのくらいの年の女の子はこういう話が好きなものだ。
ふと、隣を見ると白河さんの顔が真っ赤に染まっていた。
「……だ、だいじ、な、ひと」
「ねえ、白河さん!アコギ弾いてくれない?俺が歌うからさっ!」
「……ふぇ!え、でも」
「はーい、次はこのお姉ちゃんが弾いてくれまーす、お兄ちゃんよりすっごい上手いんだぞー」
白河さんは俺からアコギを受け取ると、覚悟を決めたかのように弾き始めた。
これはHYTの曲だ、任せろ俺の美声を響かせてやる。
「~~~!」
曲が終わると子どもたちが目を輝かせて俺たちを見つめてくる。
「……すげー」
「すげえすげえ!なんかめっちゃかっこよかった!」
「もっと!もっといっぱい弾いてよ!」
調子に乗っていろいろな曲を弾いて聞かせていると、あっという間にあたりは暗くなり始めた。
子どもたちは家に帰っていき、そんなこんなで俺たちの小さなライブは終了となった。
俺たちは二人になり小さなライブの余韻に浸っていた。
「……」
「わたし、ギターが楽しいんだって気持ち、忘れていたのかもしれません」
「お父さんのことを馬鹿にした人たちを見返してやるんだって、いつからかずっとそのことばかり考えてました」
「でも音楽ってすごい自由で楽しくて、みんなを笑顔にできるものだった」
白河さんが小さな声でそっと口にする。
「ふふっ、今日もしもあの子たちがいなければどうするつもりだったんですか?」
「まあ、適当にアコギを弾いてもらえれば分かってもらえるかなーくらいに考えてたかな」
正直あの子どもたちがいてくれて本当に良かった。
息抜き程度にアコギを弾いてもらって、何か感じてもらえればいいかなー程度に考えていたのだが、
あの子どもたちのおかげで白河さんは何が大切なものかをちゃんと思い出してくれたようだ。
「これからもさ、白河さんが楽しいと思えることしようよ」
「自分が楽しんでいれば相手も自然と楽しくなる、楽しい気持ちは必ず相手に伝わる」
「これ昔に日和さんに言われた言葉なんだけど、いい言葉だと思うんだよね」
そう口にした俺は後ろを向き、白河さんのほうを振り返ると同時にその昔封印していた渾身の変顔を白河さんに見せる。
「え、あ、あははっ、あははははっ!なっ、なんですか、その顔!?」
「あはは、やっぱり白河さんは笑ってる方がかわいいよ」
「気づいてた?今までのスタジオ練習中ずっと険しい顔してたんだよ、多分それじゃいい演奏出来ないと思うんだよね」
そう言って、俺たちは笑いあう。
やっぱりみんな楽しく笑っているのが一番だ、もちろん人生の中には楽しいだけじゃ乗り越えられないことがあるのも知っている。
でも今は笑う時だ。小難しいことをずっと考えていても良い方向になんて進めやしない。
「天宮せんぱいはずるいです、わたしのことなんて放っておけばいいのに」
「そんなこと言われたら、やるしかないじゃないですか」
「……あの、わたし、新曲やりたいです」
どこか吹っ切れたような、かすかに聞こえるぐらいの声でそう口にする。
不安はあるだろう、自信なんてこれっぽっちもないだろう。だけど、白河さんはやりたいと言ってくれた。
そこまで言われたからには、こちらも覚悟を決めよう。
「白河さん、新曲のアレンジと間奏のギターソロ全部見直そう。白河さんがやりたいように、楽しく輝けるように弾いてやろう」
本番まであと1週間もない、スタジオはとれず合わせる時間もない、ここでアレンジを考えて新曲なんて普通はやらない。
でも、不思議と今の白河さんならできると思った。
「わたしがやりたいように」
「楽しくてキラキラ輝けるように」
「正直、自信なんて全然ありません、でもわたしの思うとおりに。……おもいっきり、楽しいアレンジにしてみせます」
白河さんは泣きながらも力強い声でそう言い放った。
灯火と未来にメッセージを送る。
「すまん、新曲やる!」
「は?」
「え?」
「とにかく、そのつもりで練習よろしく!」
「よくわからないけど了解」
「わたしもOKです!」
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