第24話
本番当日、お祭りの最終日ともあって、結構な人がいる。
ライブハウスとは比較にならないほどのお客さんが集まっている。
灯火と未来はそれほど緊張していないようだ、ほんとに頼もしいドラムとボーカルだ。
白河さんは緊張しているようだが焦りや不安といったものは感じられない、じっと前のバンドのステージを見つめている。
これだけの大舞台だ、俺たちは気合いを入れるために円陣を組むことにした。
「人はめっちゃ多いけど、みんな全力で楽しむこと!」
「来ている人たちみんなに俺たちの音楽を聴かせてやろう!」
「いくぞ!おぉー!」
ステージに出ていく時に、白河さんが俺の傍に来てそっと話しかける。
「天宮せんぱい、わたしの音ちゃんと聴いていてください。わたし思いっきり楽しみます、そしてわたしも輝いてみせます」
そして本番が始まった。
「はじめまして!Heavenly Lightです!」
「皆さんお祭り楽しんでますか!?今日は私たちのライブで、もっともっと楽しい日にしましょう!」
未来がMCで観客に話しかける。
「初めから全力でいきます!よろしくお願いします!」
1曲目は日和さんが卒業の時に作った曲、万人受けするノリの良い曲で観客の足を止める。
すると、曲に入った瞬間から白河さんの音の違いに気づいた。
……笑ってる、白河さんが笑いながら弾いてる。ミスなんて気にしてない、ギターの音が生き生きしてる。
これだ、俺はこれが聴きたかったんだ。心の中でガッツポーズを決める。
俺は灯火と目を合わせる、スタジオ練習の時とは違う音、でも俺たちなら合わせられる。幼いころから培ってきたドラムとベースで存分に支えてやるとしようじゃないか。
2曲目は未来の曲だ。激しい曲で、こいつら何か違うぞと思わせる!
ここでも白河さんは曲を楽しんでる、激しい曲のイメージは壊さずに勢いよく正確かつ繊細に弾きこなしてる。
やばい楽しい、どうせならもっともっと大勢の観客に俺たちの曲を聴いてもらいたい。
中庭ライブを経験してからだろうか、そんな欲求が日に日に強くなっているのを感じる。
3曲目~4曲目と終わり、
そして最後の新曲、間奏を長くしてギターソロを目立たせる、俺が白河さんのために作った曲。
ふと白河さんの足元のエフェクターが目に入る。
リハの時も思ったが、あんなエフェクター持ってたっけ?
曲が始まる、ドラムが力強くリズムを刻む、そこに俺のベースが加わる。
未来の歌声がこの夜空に高らかに響き渡る。
……そろそろギターソロがくる。
白河さんをちらりと見ると、白河さんも俺の方を見ていた。
目が合ったと思った瞬間、白河さんが何かを決意したかのようにキッと前を向く、そして、エフェクターのスイッチを押した。
スイッチを押した瞬間、ギターの音色が変わる。
白河さんは一度ストロークした後に天を仰ぐ、そしてギターを天高く掲げた。
お父さんがライブでいつもやっていたというパフォーマンス、やばいかっこいい、と思った。
すぐにいつものポジションに戻したと思った瞬間、爆発的な音色、空気が変わる。
ギターの音色が夜空を貫き走り回る、白河さんからわたしという存在をみろという強い意志を感じる。
今まで聴いたどんなギターソロよりもかっこいい!
長いようで短いギターソロ、その瞬間に自分のすべてをぶつける。
これが白河天音、俺たちHeavenly Lightのギタリスト。
すごい、すごいすごいすごい、そう思わずにはいられない。
ギターソロが終わり、ミライの歌声が一層高らかに空を舞う。
直後に驚いたのはギターソロが終わっても、ギターが走り回っていることだ。
ちゃんと他の音は邪魔しないように。白河さんを見るととても楽しそうだった、あんな顔今までみたことがない。
ああ、やってよかったと思った。今日のライブも最高だ。
未来は完全にノッている、ギターにひきづられていつも以上のパフォーマンスができている。
俺も負けてなんかいられない、あとのことは知らない、全力で歌を歌う、いつも以上に、俺もノッている。
そして曲が終わる。
あたりを静寂が包む、と思った瞬間。
割れんばかりの歓声、こんな歓声人生の中でも初めてだ。
(はぁはぁ、最高、俺たちやばいな。)
そうして俺たちの最高のライブが終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます