第22話
「ねえ、このバンドの名前ってどうするの?」
灯火がいきなりそんなことを言い出した。
そういえばバンド名考えてなかった、HYTは日和さんとのバンド名だし。
ネットにも曲は上げたいし宣伝用についったぁもやらないと、新しく決めておかないといろいろとやりづらい。
「うーん、全く考えてなかった」
「やっぱり雪兎センパイのバンドなんだし、スノーラビットとか?」
すまん、それはもう使われているんだ。というかそれじゃ俺だけになるじゃないか。
「みんなのバンドなんだし、みんなを表す名前とかがいいかなぁ」
「やっぱり英語がかっこよくないですか?フューチャーガーデンとか」
「か、漢字とかどうでしょうか?白色天樂みたいな」
未来と白河さん、二人とも微妙に自分の名前を絡ませてくる。
「うーん、灯火、未来、天音、雪兎、ダメだ名前からは思いつかない」
「……天宮あかり」
「え?」
特に興味がないのかと思っていた灯火が突然その名前を口にする。
「雪兎のお母さんの名前、翻訳したらそのままだった。けど、天のあかりで翻訳してみた」
Heavenly Lightへぶんりー・らいと 翻訳サイトで翻訳された英語にはそう書かれてあった。
「……天国の光、または天からの光」
「いいじゃないですか!」
「わ、わたしもいいと思いますっ!」
未来と白河さんがそろって賛成した。
俺を産んでまもなく亡くなってしまった母さんの名前。
未来も白河さんも俺の境遇のことは知っている。
なぜかその名前を聞いて、天国の母さんが笑っているような気がした。
「よし、じゃあバンド名は Heavenly Light でいこう!」
その日のうちに曲を上げるチャンネルを開設し、ついったぁにも登録しておいた。
――
「ねぇ天音ちゃんっ!今度の日曜日、美容室行かない?」
未来がそんなことを言い出した。
「だって素材がいいのに、髪がボサボサじゃもったいないよぉ」
「前髪も整えた方が前も見やすいと思うし」
確かにそれは俺も思っていた。
白河さんはいつもボサボサの髪をしており前髪で目を隠しているが、実は非常に整った顔をしているのを俺は知っている。
まあ本人次第だとも思うが、見た目をしっかりすることで自信にも繋がるんではないだろうか?
「行ってみてもいいんじゃない?」
「白河さん可愛いんだし、もっと自信もってもいいと思う」
「か、かわいい!?」
白河さんの顔が真っ赤になる、見つめるとパッと下を向かれてしまった。
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」
消え去りそうな声でそう口にした。
「じゃあ俺は新曲でも考えてみるとするかなー」
「え?雪兎センパイも一緒に行くんですよ?」
未来が何言ってるんですか?みたいな感じで俺に言う、え?そうなの?
当日、未来が予約してくれていた美容室に向かった。
やばい、めっちゃオシャレだ、こんな服装で来て良かったのだろうか?
やっぱり俺はやめておいた方が、なんて考えていると未来と白河さんがやってきた。
「おはよーございます!センパイ!」
「なあ、やっぱり俺にはハードルが高いような」
「大丈夫ですって!行きましょう!」
未来が強引に俺を引っ張っていく。誰か助けてくれ。
「いらっしゃいませ!まあまあ、これは可愛いお客さんね」
店員さんは女性の方だった、灯火や未来とは違う、大人の余裕を感じるというか、かなり美人だ。
その時点で俺の緊張はピークに達しようかとしていた。
「じゃあまずはこっちでいろいろお話し聞かせてもらえるかしら?」
いきなりカットする訳じゃないのか、よく分からないがとりあえず店員さんと話をすることにする。
同じように白河さんも別のお姉さんに連れられて話をしているようだった。
「希望とかあるかな?あと今まででイヤだなーとか思ったことがあったら教えて欲しいな」
「一応ヘアカタログとか見てもらって気に入ったのとかあればいいんだけど」
渡されたヘアカタログをざっと眺めて見る、まあショートあたりがスッキリして1番いいだろう。
いいな、と思ったイケメンモデルを指さし、
「こ、こんな感じでしょうか」
「ええ、スッキリしててとっても似合うと思いますよ」
「じゃあこれでいきましょうか」
カット中も店員さんは色々声を掛けてくれた、バンドのことや学校のこと。
切り終わる頃には緊張はかなりとけていた。シャンプーの際、お姉さんの体が近づきドキドキしていたのは内緒だ。
改めて自分の髪を眺める、おお、なんかオシャレだ。これで俺も陽キャの仲間入りではないだろうか?
なんて考えていると、どうやら白河さんもちょうど終わったようだった。
え?だれ?
そこにはしっかりと髪が整えられた小さな妖精がいた。
「あ、あの、あの、へ、変じゃないでしょうか?」
自信なさそうに上目遣いで俺に問いかける妖精、もとい白河さん。
「いや、めっちゃかわいい」
思わずそう口にしてしまっていた。未来がニヤニヤしている。
「ですよねー!天音ちゃんめっちゃかわいいですよね!」
「これは世の男性諸君が放っておかないでしょうねぇ」
白河さんが恥ずかしそうにうつむく、かなり恥ずかしいのだろう、このまま爆発してしまいそうだ。
未来が俺の耳元でささやく。
「雪兎センパイも、かっこいいですよ♡にひひ」
恥ずい、かなり恥ずい、多分俺の顔は赤く染まっていただろう。
家に帰って鏡を眺める俺は、
髪型ひとつでこんなにも変わるもんなんだなぁと思うのであった。
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