第5話 『この世界、どう考えても普通じゃない。』

 砂嵐王サンドレイスを倒した翌日、

 サンドロストの街はお祭りみたいに騒がしかった。


「酒だーっ!!」

「救われたぞー!!」

「堕ち星の御方に感謝を!!」


(いや俺、拳振っただけなんだけど……)


 昨日の衝撃がまだ身体の中に残っている気がする。

 胸の奥がうずくというか……熱いというか。


(なんだったんだ、あの力……?)


 考えても分からない。


 そのとき、横から壺を抱えたサラがズカズカ近づいてきた。


「マスター! 今日はお祝いよ! 好きなもの食べなさい!」


「なんか全部砂味なんだよなここ……」


「砂漠だもの!」


(砂漠を理由にするな!!)


 すると、背後から足音もなくルナが現れた。


「レイジ。散歩に行くわよ。話したいことがあるの」


「え、散歩……?」


「“この世界”のこと。あなたはまだ知らなすぎる」


 ルナの横顔はいつになく真剣で、

 サラもなぜか黙った。


「……行きましょう、マスター」


 二人に挟まれながら街を出る。

 砂漠の昼は強い光と遠い蜃気楼で、景色が揺れている。


 少し歩いたところで、ルナが口を開いた。


「レイジ。この世界の正式名称は“アテンシア”。

 三つの領域に分かれているわ」


「三つ?」


「“砂界(さかい)”」「“影界(えいかい)”」「“星界(せいかい)”」。


「……聞くからに嫌な予感しかしないんだけど」


「砂界は私たちが生きる場所。

 影界は――影の民が住まう“裏側の世界”。

 星界は、神と呼ばれる存在が棲む“頂点の空域”。」


(え?神いるの?)


 サラが続ける。


「砂界はね、三つの中で一番“生存が難しい”のよ。

 モンスターも多いし、気候もキツいし。

 だから強者が街を守る文化が根付いてるの」


「じゃあサンドレイスも、その……」


「砂界を支配する側の怪物よ。

 ああいうのが普通に出るのが砂界」


(普通じゃない……絶対砂界住むの向いてない……)


 ルナはふと立ち止まり、俺を見た。


「あなたが落ちてきたのは“砂界”だけど……

 本来、堕ち星は“星界”のものなの」


「ちょっと待て。またわけ分かんなくなってきたぞ」


「簡単に言うとね」

 ルナが指を空へ向けた。


「あなたは“本来落ちてくるはずのない場所から落ちてきた”のよ」


「……は?」


「普通の転生じゃない。

 もっと“不自然”。

 もっと“意図的”。

 もっと“誰かが企んだような落下”。」


「誰かって……誰だよ……」


「そこまではまだ分からないわ。

 でも確実に言えるのは一つ」


 ルナが俺の胸のあたりをそっと指先で押した。

 その瞬間、昨日の戦いみたいに胸が熱くなる。


「あなたの中には“星界の核”が宿っている。

 砂界の住人ではありえない力。

 影界の民でも持たない力。

 それを持っているのは……本来“神”だけ」


「……俺が“神クラス”ってこと……?」


「正確には、“神の残骸”ね」


「残骸!!?物騒な言い方するな!!」


 サラが俺の肩に乗り上げるように言った。


「だから狙われるのよ、マスター。

 砂嵐王だって、マスターの“核”に反応して暴れたんだわ。

 あなたを喰らえば、奴らは力を取り戻せるから」


「今日初耳なんだけど!!? なんで昨日から言わないの!!」


「だって昨日言ったら逃げるでしょ?」


「当然逃げるわ!!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


(なんで笑ってんだよ……俺めっちゃ重大な立場なんじゃん……)


 そのとき、遠くで砂煙が上がった。


「……来たわね」


 ルナが目を細める。


「もう一人、あなたを追う者が」


「ちょ、また!? 休ませてくれよ俺を!!」


「安心して。今回は敵じゃないわ」


 ルナがそう言った瞬間、砂煙の中から

 白い服の人影がゆっくり歩いてきた。


 長い杖。

 白銀の髪。

 褐色の肌。


 そして――


「久しぶりね、レイジ」


 俺の“前世”の名前を呼んだ。


 全身が凍った。


(……なんで……こいつ……俺の前世知ってんだ……?)


 サラもルナも、

 何が起きたのか理解できず固まっている。


 白い女性は静かに微笑んだ。


「あなたをここに送ったのは――

 “私”よ」


「え?」


「私は“星界の使者”。

 あなたを殺した運命の調整者でもある」


「殺した!?!?」


「話すことはたくさんあるわ。

 でもまずは――」


 彼女が杖を地面についた。


 砂が波紋のように広がる。


「あなたの《堕星核(オチボシコア)》が……もう目覚め始めている」


 心臓がズキンと熱くなる。


(……なんだよこれ……

 俺、どこまで巻き込まれてるんだ……)


 世界は静かに、しかし確実に“核心”へ向かって動き出していた。

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