第4話 『砂嵐王、来る。俺、逃げたい。』
朝。
砂漠の街サンドロストは、やけに静かだった。
「マスター、起きて!」
「あと30分……」
「ダメよ! 今日はサンドレイス討伐よ!」
「そのイベントやめよう!? 今日も引きこもろうよ!?」
サラに布団を剥がされ、俺は強制的に起床した。
(なんで異世界に来てまで早起きしなきゃいけないんだ……)
外へ出ると、街中の人間が遠巻きに俺を見ていた。
「いよいよ“堕ち星の御方”が動くのか……」
「砂嵐王を倒すに違いない……!」
「昼には平和になってるわね……!」
(いやいやいや、なんで俺が倒すってことになってんだよ!)
その中で、ひときわ目立つ銀色があった。
「おはよう、レイジ」
ルナだ。
相変わらず無音で俺の横に現れる。
サラはあからさまにムッとしていた。
「ルナ、なんで来てるのよ」
「マスターに付き従うのは当然でしょう?」
「いや、マスターは私のものよ!」
「“もの”って何よ」
「はぁ!? 何か文句ある!?」
朝からヒロイン同士がバチバチしている。
(胃が痛い……異世界の胃薬あるかな……)
「はいはいストップ! 俺は戦うかどうかも決めてないから!!」
二人の間に割って入ろうとしたそのとき。
地面が震えた。
街の外。
砂漠の彼方で、巨大な砂煙が巻き上がっていた。
(……来た)
ルナが真顔になる。
「砂嵐王サンドレイス……。
砂を喰らい、風をまとう“砂漠の怪物”。
一度暴れれば街が丸ごと吹き飛ぶわ」
「えっ……そんなの聞いてないんだけど!?」
「言わなかったもの」
「なんで黙ってたの!!?」
砂煙が近づくにつれ、
地響きが一定のリズムを刻み始めた。
ドン……ドン……ドン……
まるで巨獣の足音。
街の人々が逃げ惑う。
兵士たちも城壁の上で震えていた。
「マスター……逃げる?」
サラが俺の袖をつかむ。
「逃げたい!めっちゃ逃げたい!!」
「でも……逃げても追ってくる」
「なんで!?」
ルナが静かに答える。
「“堕ち星”を喰らうためよ」
「喰われる前提の呼び方やめろ!!」
そんな会話をしている間にも、
砂煙はどんどん大きくなっていく。
やがて――見えた。
砂嵐王サンドレイス。
人間の何十倍もある、巨大な砂の塊。
ところどころに岩のような角が生えていて、
中心には巨大な眼球が一つ。
「ギィィィアアアアアアアアッ!!」
叫び声と同時に、砂嵐が吹き荒れた。
(こいつ……やばい……!!!)
足がすくみそうになったその瞬間。
「レイジ、下がって」
「え?」
ルナが一歩前へ出た。
風が彼女の銀髪を持ち上げる。
「あなたの“影”が暴れる。
でも、まだあなた自身が制御できない。
だから私が抑える」
「待て待て待て……俺、暴れんの!? 初耳なんだけど!?」
「黙って見てて」
ルナが両手を広げると、
空気が静まり返った。
次の瞬間――。
ルナの影が、
地面に“滲む”ように広がった。
黒い液体みたいに、ゆっくり、じわりと伸びる。
サンドレイスが咆哮した。
「ギアアアアアアッ!!」
砂嵐が吹き荒れる。
視界が茶色に染まる。
「サラ!!」
「分かった!!」
サラが壺を構えた。
「《壺獣(コボジラ)召喚!!!》」
「キエエエエエッッッ!!」
(また出た!! こいつほんと叫び声だけ怖ぇ!!)
しかしコボジラが砂嵐に突っ込んだ途端――
一瞬で吹き飛ばされた。
「ギャフッ!!」
(弱っ!!)
「こいつ、相性悪いのよ!!」
サラが叫ぶ。
ルナが静かに目を閉じる。
「……影よ」
黒い影がさらに地面を這い、
サンドレイスの足元へ伸びていく。
「掴んで」
影が怪物の足を“締めつけた”。
「ギィッ!?」
砂嵐が一瞬弱まる。
「今よ、レイジ!」
「今!?なにすりゃいいの!?」
「あなたの“本能”に任せて!」
「そんなアバウトな指示ある!?!?」
しかし、俺の中で何かが脈打った。
胸の奥が熱い。
こめかみが震える。
(まただ……身体が軽くなる……)
砂嵐の中、俺はサンドレイスに向かって拳を握り――
振り下ろした。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
大地が割れた。
砂嵐が止まった。
サンドレイスの中心部に亀裂が走り、
その巨体がゆっくりと崩れ始めた。
「ギ……ィ……ッ……」
砂が風にさらわれ、
怪物は跡形もなく消えていった。
静寂。
街中が固まった。
しばらくして――。
「「「……うおおおおおおおおおお!!!!!」」」
歓声。
兵士も市民も皆、俺を見て叫んでいた。
「堕ち星の御方が倒したぞ!!」
「サンドロストの救世主だ!!」
「伝説が復活した……!!」
(いや違うって!!俺何した!? 拳振っただけだぞ!!)
サラが目を輝かせる。
「マスター……すごすぎる!!」
ルナは静かに俺を見つめて言った。
「ね? あなたの“影”が覚醒した」
「覚醒とかやめろ!! 怖いから!!」
騒ぎの中、ルナは俺の耳元で小さく囁いた。
「……でもまだ序章よ。
“あなたを探すもの”は、これからもっと現れる」
「ちょっと待て、なんで俺狙われてんの!? 誰!?」
「その答えは――」
ルナが微笑んだ。
「すぐ分かるわ。
あなたを殺した“あれ”が、また動き始めてるから」
「殺した!? 誰が!? 何が!?!?」
俺の心臓が跳ねた。
異世界で生き延びるどころか、
“死んだ理由”まで追ってきてるなんて聞いてない。
(やばい……絶対やばい……)
砂嵐王を倒したばかりだっていうのに、
新たな影が迫っているらしい。
俺の異世界四日目は、
英雄扱いと不穏な予告で幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます