第6話『星界の使者、真実を語る。俺の心は追いつかない』

 砂漠の真ん中。

 風だけが音を残して吹き抜けていた。


 白い服の女――星界の使者を名乗るその人は、

 なぜか俺の“前世の名前”を知っていた。


「……なんで……俺の名前、知ってるんだよ」


 俺の声は、乾いた砂みたいに震えていた。


 白い女は、微笑みながら杖を握り直す。


「私は“セレス”。

 星界の使者であり……あなたの“魂の管理者”でもあるわ」


「魂の管理者!? なんかもう嫌な予感しかしねぇ!!」


 俺が叫ぶと、サラが俺の腕をつかんだ。


「マスター! この女……信用していいの?」


「落ち着けサラ。今は話を聞くべきよ」

 ルナが低い声で言う。


 サラとルナ、二人とも警戒しているのが分かった。


 セレスは俺の方に一歩近づいた。


「神谷レイジ。あなたは、前の世界で“死”の運命にあった」


「運命って……俺は階段で倒れただけだぞ!?」


「ええ。

 あなたの身体は限界だった。

 そのまま生きていても……数日以内に倒れていたでしょう」


「マジかよ俺……」


(そんなギリギリだったのか……俺……)


 胸の奥がズン、と重たくなる。


 セレスは続けた。


「でもね、レイジ。

 その“死”は本来避けられていたの」


「……避けられた?」


「あなたの“死”は、

 本来の運命にはなかった“不正な死”だったのよ」


「不正……?」


「誰かがあなたの運命に干渉して、

 “死ぬ方向に少しだけ押した”の」


「は!?」


 サラとルナが同時に剣気を立てた。


「レイジを殺そうとしたやつがいるってこと!?」

「それは……星界の禁忌よ」


 俺はパニックになりかけた。


「ちょ、待て、犯人は誰なんだよ!?

 俺を殺したやつって誰なんだ!!」


 セレスは静かに首を振った。


「分からないの。

 でも……あなたを押した“力の波形”だけは残っていた」


「波形?」


「それはもともと“星界の者しか使えない力”。

 だから――」


 セレスは杖の先を空へ向けた。


「あなたを殺したのは、星界の誰か。

 “神クラスの存在”よ」


 空気が一気に冷えた。


(星界の……神……?

 そんなやつが……俺を……?)


 理解が追いつかない。

 でも震えが止まらない。


「だから私は決めたの。」

 セレスがまっすぐ俺を見る。


「あなたの魂を回収するのではなく……

 “この世界に逃がす”という選択を」


「逃がす……?」


「そう。あなたを守るために」


 心臓が強く跳ねた。


(……守るために、異世界に……?

 俺、誰から逃げてんだ……?)


 セレスは俺の胸の上に手をかざした。


 胸が一瞬だけ熱くなる。


「あなたの中にある《堕星核(オチボシコア)》は、

 星界の“残骸”ではなく――

 あなたを守るための“防壁”」


「防壁……?」


「神の力のかけらを組み替えて、

 あなたの魂を守るように私が施したの」


「ちょ……待て……それって……」


「あなたは、“神に殺されかけた人間”なのよ、レイジ」


 頭が真っ白になった。


 砂漠の熱気も、風も、全て遠ざかる。


(俺……神に……殺されかけて……

 そして今も追われてる……?)


 サラが震え声で言った。


「マスター……そんな重い運命……聞いてない……」


「レイジ……」

 ルナの瞳も揺れていた。


 セレスはそれでも穏やかに笑う。


「でも大丈夫。あなたはもう一人じゃない。

 サラも、ルナも……そして私も、あなたを守る」


「守るって……どうすりゃいいんだよ……俺……」


「あなたには《堕星核》がある。

 あれは“神の力の残渣”。

 あなたはこれからさらに強くなるわ」


「強くなりたくてここ来たわけじゃないんだけど!!」


 俺が叫んだ瞬間、

 遠くで雷のような音が響いた。


 空を見上げると――赤い光がふっと瞬いた。


「……来たわね」


 セレスが呟く。


「“星界の狩人(ハンター)”が、動き始めた」


「ハンター!? なんで狩られてんの俺!!?」


「あなたを殺した“存在”の……手先よ」


 心臓が跳ねあがる。


 逃げても無駄。

 隠れても無駄。


 星界からの“神クラスの追っ手”が来る。


(ふざけんなよ……俺、どんだけ巻き込まれてんだよ……)


 セレスは静かに俺の肩に手を置いた。


「大丈夫。

 まだ戦わなくていい。

 “堕星核”が完全に目覚めるまでは」


「完全に目覚めるって……いつだよ……」


「すぐよ。だって――」

 セレスが微笑む。


「あなたの感情はもう、動き始めているもの」


「……感情?」


 胸がチクッとする。

 サラとルナが俺を心配そうに見た。


(……なんだよこれ……

 この世界……俺の運命……

 全部ぐちゃぐちゃじゃねぇか……)


 風が、砂を巻き上げた。


 遠くの空で、赤い光がまた瞬く。


 世界は静かに、

 しかし確実に“神”との戦いへ向かって動いていた。

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