ソラノーツ

花の人

プロローグ

「――どうか安らかに眠らんことを」


 ――木陰に、銀の瞬きが揺れている。

 横切る風が黒衣をはためかせ、幻のようにその影が躍る。


 澄んだ静寂。

 差す陽光は、輝きの舞台を今か今かと待っている。


「――」


 項垂れる男が、小さく笑った。

 その瞬間――。


 ――リリ――ン……。


 鈴の音色。

 空に弧を描いた銀光が、大気に擦れた刃と共にその福音を奏でた。


 巻き起こった旋風に、木々の葉がざわめく。

 ……遅れて。


 ――ゴトリ……。


 地を転がる、男の首。

 その表情は穏やかさに満ち、ただ安らかだった。


 やがて男の肉体は、まるで砂のように崩れて解けていく。

 ただ風だけが、魂と共に彼を空に届けるのだろう。


 遥か天上、きっと宇宙の果てへと。


「――」


 それを為した黒衣の少女が、振り抜いた大鎌を背中に直し、顔に付けていたマスクを取る。

 そしてボクを振り向き……言うのだった。


「――それでも、付いてくる?」


 日の光を受け輝く、頬を伝う涙。

 悔しまぎれの笑顔の上を濡らす、その涙に。


 ――ボクは……。


 ……これがきっと、ボクと彼女の、本当の意味での出会い。

 そして終わることのない、永い旅の始まりだった。

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