第17話
「霊になにをしようっていうのよ」
誓ってなにもしない、と翔は繰り返す。
「名前をおうかがいしてもよろしいでしょうか」
慎一はかしこまって訊ねる。
「黒沢真紀」
「じゃ、真紀ちゃん、でいいかな」
誠が言う。
「ウザイ。なれなれしい」
「すみません」
誠が謝ると、真紀はにっこりと微笑んだ。
「ウザイ」と不機嫌に言われたあとの愛らしい微笑みにときめき、静かな感動が湧き起こる。誠に向けられた笑顔とはいえ、年頃の女子に微笑みを見るなんて初めてだ。なんと幸せなのだろうか。
真紀は部室に行こうかなと言った。
全員で喜び、案内をして部室に招き入れると、倫にもしたようにお茶を淹れてもてなす。
そうして、一人ずつ自己紹介をした。誠が再度自己紹介をした時、真紀はちょっとだけ好奇のそぶりを見せた。さっきから誠に反応する。もしかしたら、誠のような男がタイプなのかもしれない。でも、とりあえずみんなで話の続きを聞くことにした。
「黒沢さんには何があったの」
「卒業間際だったかな。この大学に進学が決まったあとの話。休日に同じ学校の男子と偶然会って、ちょっとだけ道端で話していたの。そうしたら翌日二人でいたところの写メが学校中に流れていて、どう悪口がエスカレートしたのか、その男子とラブホに行ったんだとか根も葉もない噂まで流れて。SNSで私への罵詈雑言が激しくなっていて。背景がラブホテルの合成写真まで流出していたの。写メ撮った女子を探り当てて問い詰めて、噂を取り消せって言ったんだけど相手も『噂の発端は私じゃない』とか言い始めてさぁ。その日の夕方、怒り心頭でチャリに乗ってコンビニまで行こうとしたら車と衝突しちゃったんだよね。私の不注意だったと言ってしまえばそれまでだけど……」
「高校の卒業間際って、みんな進路が決まって落ち着いて楽しくやれるものじゃないの」
高史は自分の高校卒業間際の雰囲気を思い出して言った。ぼっちで傍から眺めているだけだったけれど、みんな思い出を作ろうと写真を撮ったり、遅くまで談笑したりと、そんな光景を見ていた。
「普段から私のことが気に入らない子がいたんだ。卒業間際だからこそ、ここぞとばかりに悪口言っちゃったんだよ。それがどんどん変な方向にこじれていっちゃった感じ。大学は志望校に落ちたけど、ここに入るのを楽しみにしていたの。でも、悪口を言っていた子たちが志望校に入って、今頃大学生活を楽しんでいて、さらにこの先の将来もあるんだと思うとやり切れなくてさぁ……」
美しく細い声に、ときめく。これだ。一度感じてみたかったことだ。
「恨みとかあるの」
誠が言うと、「ちょっとはね」という返事が返ってきた。
「じゃあ、復讐とかしたい」
康宏が訊ねる。
「それもまあ、ちょっとは思うよ。でもほんのちょっと思うだけで、行動に移す気はないよ。流石に天国行ったのに復讐なんかしたら、地獄行きじゃない?」
みんなはうんそうだね、と相変わらず知ったかぶりで頷く。実際に天国も地獄も見たことがないので想像がつかない。他にどんな会話をしてみようかと考える。
「黒沢さんは二年間この大学を眺めていて、どう? なにか得られるものはあった」
慎一が問いかけると、真紀は首をふった。
「全然。ここの学生の笑顔とか見ていると余計辛くなっちゃって。でもなんとなくここに居つくようになっちゃった。ここから離れなきゃって思うんだけど、ズルズル居座ってる」
真紀は裏庭の巨木を見下ろしていた。
メンバーは顔を見合わせる。彼女のためになにかしてやろうぜ。そういう表情だ。
「黒沢さんがここで一番やりたかったことはなに」
慎一が言った。真紀はしばらく考えていた。
「勉強もしたかったけれど、大学生のうちに色々な友達を作って楽しめるようなことをしておきたかったかな。学生の時の友達って一生ものって言うし」
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