第9話

知明は正面のパイプ椅子に座りボリボリと頭を掻く。慎一が代表として口を開く。


「倫君からあなたはその道のプロだとおうかがいしました。俺たち、霊感を高め幽霊が見えるようになりたいんです。そして話せるようになりたいんです」 


「そんな方法ないっす」

 

即答され一瞬静まり返った。高史は副部長として言った。


「でもあなたは見えるんでしょう。多分見えるだけではなく、浄霊したり祓ったり、福を呼んだりできるエキスパート。名前に「福」の文字が入っているだけに。だからこの倫君の実家も栄えてきたわけですし。未来とかもちょっと見えるんじゃないですか」


「名前に「福」が入っているから福を呼べるなんてすごい思い込みすね。霊なんて見えないほうがいいっすよ。それに、未来も不確定要素で見えないす。なんのために幽霊が見たいんすか」

 

これまでの事情を説明すると、知明は「ウケル」と手を叩いて笑った。

 

やっぱり胡散臭い。というより、社会的な常識がいい大人にしてはない気がする。


「俺たち、リアルな女子と付き合えるレベルにすら達していないんです。深刻なんですよ」

 

慎一が必死になって言っている。知明はうーんと顔色一つ変えず唸る。


「引き寄せの法則というものがありまして、あんまり欲しがりすぎるとかえって遠ざかるんですよ。君たちは今、女、女、って強く思いすぎていて女から遠ざかっている状態です。あ、磯貝さんでしたか。幼少時にお尻揉まれているのが傷になっていますね。そんな傷を、女子によって埋められないかと考えている……その男の子はただ発情しただけですね」


「そんなこともわかるんですか」

 

急に言われて高史の声が裏返る。メンバーにさえ言ったことがなかった。


「ええ。市川さん。あなたは小学生の頃上級生に顔面に小便かけられたすね。あれは相手親の教育が悪かったんす。酷いことす。田中さんも……」 


各々、これまで心に抱えている誰にも知りえないような衝撃的な過去を淡々と言い当てる。


知明はクライアントの過去やら思考やらを超能力かと思えるくらいしっかりと見ることができるらしく、メンバーは全員おののく。


「なぜわかるんだ」


康宏が怒った口調で言った。詐欺ではないのか、探偵を使って事前に詳細を調べているのではないか、もっと自分たちにわかるよう理論的に過去を言い当てた証明をしろと、重箱の隅をつつくくらいに問い詰める。


しかしそんな問いにも知明はざっくり答える。


本来誰でも見える力は持っており、ある程度修練を積めば簡単に知明と似たようなことはできるようになるのだという。


大部分の人はそういう鋭い感覚やら直感を都合よく目の前の現実と理屈と科学的事象に当てはめて納得させ埋没させてしまうらしい。


メンバーの中では翔が一番自然にそうした能力を使いこなしていると言い、康宏を含めたみんなは納得していた。翔のようなタイプを磨き抜いたのが知明になるのだろう。


「いや。まあ話の根本を戻して。今は女です。女、望んじゃいけないんですか」


誠が言った。


「望んでもいいですよ。でもちょっと忘れているくらいのほうがちょうどいい」

 

願って忘れろと言われても、なかなかうまくいくものではない。


「じゃあちょっと願って忘れたとして、具体的にいつ、異性と青春ができますか」

 

慎一が訊ねる。


「そのうちいい方向に行くんじゃないすかね」

 

どうでもよさそうな顔をしている。


「そんな他人事みたいに。俺たち『そのうち』を待ってなんにもなかった人生なんです。卒業前までに、せめてこの夏までになんとかしたいんですよ。思い出を作りたいんです」

 

誠の表情は真剣だった。


「そう言われてもすね……霊なんかより生きてる女子と仲良くしたほうがいいですよ」


「だから、その生きてる女子と仲良くなれずに困っているんです」

 

高史が言うと、少し呆れたような顔をしている。クライアントの中にはもっと、比べ物にならないほど深刻な相談をする人もいるだろう。しかし、メンバーも必死なのだ。


「せめて人間の女の子紹介して下さい。お願いします」


慎一が深く頭をさげる。


「君たち全員に紹介できるほど俺も若い女性の知り合いいないですよ。いたらとっくに俺が捕まえているっす。女社長さんとかは五十、六十代ですし、性格はひと癖もふた癖もありますからねえ。純情な君たちにはとても紹介できないですよ」


「六十代でも構いません!」

 

誠は半ば叫んでいた。本気かよおまえ、という空気がメンバー内で流れる。

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