第8話
料金は倫の交渉により、なんとか六人で三万円にしてもらえることになった。
日曜になり、午後一時にS駅で合流すると、徒歩で倫のあとをついていく。
蒸し暑い日で、背中から汗がじわじわと出てくる。
「なあなあ、僕いつもなら自宅からハイヤーなんだよ」
自慢したいのだろう。
「なら、なんで今日はハイヤーじゃないんだ」
康宏が振り返る。
「乗りたかったかね。乗りたかっただろう。庶民は乗れないんだ」
「そういうおまえだって今日は徒歩だろ」
イラっとした様子で康宏が言う。すると、翔がお見通しであるかの如く語った。
「倫は教育ミスでプライドだけ高いボンボンになってしまったので、おそらくおばあさまあたりが怒ったんだろう。自分の足で社会勉強してこいっていうことなんだと思うぞぉ」
「なんでわかるんだよ」
倫はぎょっとした様子で言った。
「蛙の子を蛙にしたくなかったんだぁ」
翔は得意気な笑顔を作りのんびりとした歩調で歩いている。
ここだ、と倫は立ち止まる。目の前には二十階建ての立派なマンションがあった。最上階に住んでいると聞いたので、ロビーに並んでいるポストを見る。
福岡、とあった。名字に「福」とあると、縁起がよさそうで羨ましくなる。
最上階はその名前しかなく、ワンフロア丸々部屋として使っている様子である。
エレベーターに乗り、最上階に辿りついてドアの前に立った。倫が呼び鈴を鳴らすと、緊張がその場に走る。
たいして深いことも考えずなんとなく軽い気持ちで来てしまったが、実際は大企業の偉い人を相手にしている人である。
もちろん、高原だけではなく他の会社の社長や重役などにもアドバイスをしているのだろう。
服装はTシャツにGパンだがこれでよかったのかと今更気になり始める。
一体なにを言われるのだろう。いきなり身なりがなっていないと怒られたらどうしよう。未来や未知への不安と、若干の恐怖心が出てきた。
オートロックの黒いドアが開き、中から色白の若い男が顔を出した。
二十六、七くらいだろうか。
「知明さん、お久しぶりです」
倫が笑顔を浮かべる。
知明はメンバー全員を見回し、軽く会釈をする。拍子抜けした。白と赤のストライプのTシャツ。首にはシルバーのメンズチョーカーをつけている。
この人、ファッションセンスがゼロだ。高史はそう思う。
「どうぞ。入って下さいっす」
「この人は、『その道のプロ』の息子?」
高史は耳元で倫に訊ねる。
「この方が現在のご当主だ」
代々重宝されているというのだから、もっと貫禄のあるお年寄りを想像していた。しかし今目の前にいる人はファッションセンスがなく言葉遣いの怪しい胡散臭い人に見える。
十四畳ほどのリビングにとおされる。中央には低いテーブルにクリーム色のソファー、高さがバラバラの椅子がいくつか置かれていた。
大きなテレビもあるので、ここに住んでいるのだろう。賃貸か分譲かはわからないがリビングひとつを見ても、高そうなマンションに思えた。
ソファーとテーブルを挟んだ向かいには場違いなパイプ椅子がある。
「ソファー三人がけっす。残りの四人はそこら辺にある椅子に適当に座って下さい」
「四人?」
慎一が振り返った。メンバーは六人のはず。
高史も見回す。慎一、翔、康宏、誠、倫。やはり自分を含め六人だ。
「あ、三人ってことでいいっす」
なにかよからぬものがいるのかと全員で辺りを見回す。しかしメンバーと知明以外は誰もいない。
倫が当然のようにソファーに座った。慎一は部長ということでみんな譲った。
翔は幅もとると言って遠慮し、ソファーの近くにあった椅子に腰をかける。
「高史、お前は副部長なんだからソファーでいいよ」
誠が言うので、じゃあ、といいポジションを取らせてもらうことにした。
ソファーの横に、椅子を三つ並べる形にした。六人横一列だ。
「それで用はなんすか」
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