第10話
「二十代が六十代と青春したいんすか。なかなか面白いですね。市川さんの三つ前の過去世に、そういうのありますよ。かなり歳の離れた人との結婚。君は女で年若く、でも結婚を自由にできない時代と地域に生まれて、無理やり超年上の人と結婚させられてしまった。そして結婚後も幸せになれず、投げやりに生涯を終えたっす」
「マジっすか」
誠は顔をあげ、驚いた表情をしていた。
「だから、今も六十代でいいとか投げやりな考えかたをしちゃうんです。年相応に恋愛すらできず、いくつもの過去世で超年上の人と結婚させられる経験しかしてないっす」
「でも過去なんか覚えていないし、今の俺とは別人じゃないですか」
知明は誠の顔を見ていない。どこか遠くを見ている。
「魂は廻るんすよ。魂が世の中で体験したことを覚えていて、深く刻まれた傷やショックな出来事、思い込みなんかを引きずったまま転生してきちゃうんす。だから魂が恋人ができない、異性と仲良くできないという思い込みを引き寄せる。魂と潜在意識と顕在意識。この三つはなかなかに考えていることがバラバラで、統一されている人は少ないす。で、君たちは生まれ変わるたび、全員似たような経験を繰り返す習慣ができてしまっている。ここにいる六人のうち、みんな何千回と転生しているのに、どの時代のどの過去も、青春していません。この中の誰も、ロクな恋愛も結婚もしていません。なので類友で、倫君を除いた君たち五人の絆は強固。俺たちの過去は悲惨だったよなと呼応しあって、無意識が繋がっちゃってます」
すげえ、だから俺たちは今こうなんだ。と声が湧いた。
「そんな過去なんてどうでもいいです。現世利益をください」
慎一がごくまっとうなことを言う。知明は視線を慎一から背後の壁のほうへ移す。
「なら、魂に刻まれた思い込みを取り除くっす。先程引き寄せみたいなことを言いましたが、引き寄せの法則はネットとか見て実行すれば誰もがうまくいくわけではないす。望んでいることを邪魔する原因というのがあって、それを排除したほうがいいんすね。原因はひとつだけじゃなく多岐にわたるので難しいところっすが。これからそれをやりますか。ああ、霊は今そこにもいるっすよ。君たちの近くに列をなして」
ええっ、と全員で振り返る。しかしなにも見えない。慎一が訊ねる。
「なにがいるんですか」
「道端をうろついていた霊っす。こういう低レベルな霊が邪魔して、望んだことが空回る場合もあるんすね。あるいは君たちの潜在意意識がなにも望んでいない場合もあります。潜在意識はわりと顕在意識とは真逆のことを考えていたりするんす」
「潜在意識が青春しないことを望んでいるだと。そんな馬鹿な。こんなにも異性との青春を望んでいるのに」
康宏が疑わしげに言った。
「変化を起こして傷つくのは嫌だから現状維持をしたいと思っていることがあります。霊が邪魔するのと、潜在意識が望まない、どちらでしょう。どちらもです。霊は楽しそうにしている君たちをたまたま見かけて、羨ましがってついてきたっす」
「口じゃなんとでも言えますよねえ。ほら、知明さんの後ろにだって幽霊が」
また康宏が突っかかる。
「鈴木さんのその性格は仕方ないっすね。鈴木さんの過去世は、科学者だったのに当時は誰からも認められない発明をしていました。糾弾され、反論しようにも誰も相手にされず、ぼっちで死にました。偏屈で変わり者だったから結婚もしていません。恋人もいません。そして死に際に思いました。自分は正しい。だが、自分の反論の仕方がよろしくなかった。今度生まれてくるときは、重箱の隅をつつくくらいに反論できる人間になろうと」
「マジですか」
反論していたくせに康宏はすっかり信じている。
知明は話を戻す。
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