メリーさんとマッチングしたら寺生まれのTさんが来た話
知襟ナツ(ちえりなつ)
メリーさんとマッチした夜(男)
あの晩のことを、思い返すと、どうにも胸の奥が冷えてくる。
仕事を終えて部屋に戻り、缶ビールを一本開け、気の向くままに**マッチングアプリ**を眺めていた。
それがそもそもの間違いだったのかもしれない。
画面にひとつの通知が跳ねた。
**「メリーさんとマッチしました」**
名前だけなら、ふざけたユーザーはいくらでもいる。だが、表示された写真は妙だった。
逆光に沈み、顔の判別もつかない長髪の女。まるでこちらをじっと見つめているようだった。
既読もしていないのに、すぐメッセージが来た。
**「今、あなたの後ろにいるの」**
冗談のつもりにしては空気が冷えすぎていた。
俺は振り返る勇気もなく、黙ってスマホだけを握っていた。
次の瞬間、別の通知が来た。
**「寺生まれのTさんがあなたとマッチしました」**
画面には、柔らかな笑みを浮かべた青年が写っていた。
プロフィール欄にはたった一文。
**「寺生まれ寺育ちです」**
俺は半ばすがるように“こんばんは”と送った。
間髪入れず返信が来た。
**「後ろの気配が強いですね。少しお待ちを」**
気配、と言われたその瞬間、部屋の空気がぴたりと止まった。
俺は思わず息を呑んだ。
そして、アプリの通知がまた鳴った。
**「私はメリーさん。今、あなたの家の前にいるの」**
チャイムが鳴った。
さすがに鳥肌が立った。
俺がどうすればいいかわからず固まっていると、Tさんから短い文が届いた。
**「開けてください」**
落ち着いた調子の一文だった。
妙に信じられる気がして、俺はゆっくり扉に手をかけた。
軋む音とともに開いたドアの向こうで、黒い影が揺れた。
そこには、写真そのままの長髪の女が、首だけをぐらりと傾けて立っていた。
喉がひりつくほど乾いた。
女が一歩、こちらへ踏み込もうとしたとき――
その背後に、すっと人影が現れた。
白いシャツ、端正な横顔。
写真と同じ青年――Tさんだった。
彼は女を見据え、迷いもなく右手をかざすと、静かに息を吸い――
**「破ぁッ!!!!」**
声は短く鋭く、しかしどこか清らかで、部屋ごと洗い流すようだった。
女は霧のように散り、風に溶けるように消えた。
残された静けさの中、Tさんは軽く手を合わせて言った。
「危なかったですね。こういう怪異は、アプリの向こうからでも来ますから」
俺はようやく声を絞り出す。
「……助かった。本当にありがとう」
Tさんは穏やかに笑った。
そして踵を返し、こちらを振り向きもせずに呟いた。
**「さて。また女の子とマッチでもするか」**
その背中は妙に涼しげで、夜の廊下の灯りを受けて細く伸びていた。
ドアが閉まったあと、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
あれほど奇妙な夜を過ごしたのに、胸の奥には変な温かさが残っていた。それはそうと俺は何故寺生まれのTさんとマッチしたのだろう。色々謎は残るが……
**寺生まれってカッコいい。
俺はそう思いながらも、その後女性とマッチ出来ずふて寝した。**
メリーさんとマッチングしたら寺生まれのTさんが来た話 知襟ナツ(ちえりなつ) @chinatsuk
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