第9話 ずるい
あの二人が最上階に行った後、モヤモヤしていた。
あの女の人が何者なのかわからないけど、もしかしたら"翠川雅人"関係の人かもしれない。
でも、もしかしたら彼女かもしれない。
いやでも、浮気相手にはしないと言われた。
橘さんの私への想いは伝わってるんだけど、私自身はどうなんだろう。
仕事の取引相手…
憧れの作家…
どう思ってるか分かってないのに、する事はしている…
「もー私最悪…」
次は流されない!
ちゃんと気持ちがないと!
私は一生懸命渡された本を読んでいた。
でもだんだんと眠くなってきてしまった…。
そのまま意識が遠のいていった。
「おい」
ん?
目を開けたら橘さんがいる。
「なんで…ここにいるんですか…?」
鍵をかけたはず…
橘さんの手に何かがある。
まさか
「合鍵持ってるんですか?」
「そうだよ」
最悪だ…
「プライバシーの侵害です!」
いくら憧れてたとはいえ、こんな事するなんて…
「失望しました!」
その瞬間橘さんはショックを受けて、ソファに座って激しく落ち込んでいた。
「美鈴が電話にも、インターホンを鳴らしても出ないからだよ…。何かあった時に助けられるように持ってただけだ」
いきなり下の名前で呼び始めた…。
「すみません、そんな風に心配してくれてたのに酷い事言って…」
「・・・俺を慰めて」
私はよくわからなくて頭をよしよしした。
「あ、橘さんの下の名前ってなんですか?」
「
「そうなんですね!正輝くんごめんね、私が悪かった」
「……何勘違いしてるの?」
「え?」
橘さんが覆い被さってきて、口付けをされた。
「わからないの?」
またこの流れに…!
「橘さんすみません。私、ちゃんと好きな人とじゃないとそういう事しちゃダメだと思うので、もうできません!」
「は?」
空気が凍りついた。
「俺の事好きじゃないの…?」
橘さんの目が怖い!!
「あの…憧れてるし尊敬はしてるんです!ただそれと、恋愛感情はまた別で」
「ふーん…」
好きだと思ってたのか…
いや、好きかわからないのにシてた私もダメだ!
「わかった…」
橘さんは少し俯いた。
落ち込んでるのかな…。
「あ、あの…今日マンションで一緒にいた女の人は誰ですか?」
「……気になる?」
「あ、はい、少し」
「教えない」
……拗ねている。
「ところで読んでるの?」
「はい、寝る前に少し読んでました」
「ふーーーん。遅くない?」
渡されたばかりなのに!
「もう寝るんで帰ってもらえますか?」
「嫌だ」
めんどくさい!
「じゃあどうするんですか?」
「もう色々どうでもいいから、したいんだけど…」
どうでもいい??
さっきまで色々説得したのに!
「ここに痕くっきり残ってるね」
会社でつけられしまったキスマーク…
「これすごい困ってるんですよ!」
「やったね」
子供か…!!
「じゃあもっとつけてあげる」
橘さんにまた増やされていく。
「困ります!」
「ねぇ」
「はい?」
『例えこのまま二度と会えなくても、君は僕の宝物だよ。永遠に』
耳元で言われた台詞は、翠川雅人の、私の大好きな作品のキャラクターが言ってたセリフだった。
「ずるいですよ!」
「ちゃんと読んでるんだね。本当に」
憧れの作家さんに、大好きな作品の、大好きなキャラのセリフを言われてしまって、心が折れてしまった。
好きな人じゃないとしない、とあの時私は言った。
それでも最終的に抵抗できない・・・しないのは、嫌じゃないから。
色々理由をつけ誤魔化して、逃げているんだ私は。
本当はそこに心があるんだとわかってるのに。
認めてしまったら、気持ちが止まらなくなるのが怖くて。
せっかく開けた夢への道。
ちゃんと進みたい。
──
橘さんがすやすや寝てる間、少しまた本を読んだ。
橘さんの側にいられるうちに、色々教えてもらうんだ。
眠気と戦いながら黙々と読んだ。
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