ファーストコンタクト失敗

逆三角形坊や

ファーストコンタクト失敗

今、全世界同時中継で、地球外文明との交流が行われようとしている。

これから始まるのは、人類史上初のオープンコンタクトだ。


宇宙人はどんな姿をしているのだろう。

人間に似ているのか。

映画で描かれるグレイのような姿なのか。


世界中の人々が、歴史に残るであろうその瞬間に胸を躍らせていた。


十数時間が経過した、そのとき。

太平洋上空に浮遊していた多くの飛行物体の側面が、ゆっくりと開き始める様子が確認された。

それは「ハッチが開く」というよりも、お菓子の箱のペリペリ部分を指でめくるときのような、不思議な剥離運動だった。

表面の膜がゆっくりと外れ、薄い層がめくれ上がっていく。


そして、宇宙船の開口部から、海へ向かって「何か」がパラパラと落下し始めた。

それは、ちょうど熱湯に浸したカップ麺へ粉末スープを振りかけるような、乾いた音すら感じさせる落ち方だった。


出てきたのは、「粉」だったのだ。


宇宙人の姿は、私たちが想像していたものとはまったく違っていた。

彼らは固形生物ではなく、粉末状の粒の集合体として存在していた。

落下した粒子はそのまま海へ落ち、数秒で海水に溶けて消えてしまった。


これが、地球で初めて行われた宇宙人との接触だった。

ファーストコンタクトは、あっけなく失敗に終わった。

海に触れた瞬間、彼らの身体は形を保てず消えてしまったからだ。


だが、仮に彼らが地上に降りていたとしても、意思疎通が可能だったかは不明である。

そもそも、あの粒は生物なのだろうか。

一粒一粒が独立した個体なのか。

あるいは、粒が集まることで一つの生命システムを形成しているのか。


宇宙船を操って地球に飛来したという事実は、彼らが高度な技術を持つことを示している。

しかし、その姿から、人間のような脳を持っているとは考えにくい。

ならば、彼らの知性はどのような仕組みで発生しているのだろうか。


粉末状の宇宙人は、地球の生命観からあまりにも外れていた。

彼らとの交流には、私たち人類側の「生命」や「知性」に対する価値観そのものから見直す必要があるのかもしれない。


ファーストコンタクトが失敗に終わったあの日から、まもなく1年。


宇宙船は今も上空に浮かんだままだ。

しかし、それ以降も宇宙人との交流は一度たりとも成功していない。


近年、太平洋周辺の国々では、漁獲量の異常な変動や、海産物の局所的な肥大化が報告されている。

市場では、部分的に形の崩れたタコやカニが大量に廃棄されているという。

海水成分そのものに変化が生じている、という報告もある。


あの日、海に落ちた「あの粉」は本当に消滅したのだろうか。


もしかすると、彼らはすでに、静かに何かを始めているのかもしれない。

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