第4話 光の行方
『お前なんて殺してやる…』
ナイフを持った少年が居た。涙を流しながらこちらを真っ直ぐ見ている。
強い言葉とは裏腹に、目は泳ぎ、足は震えている。それでも僕を見る目を逸らすことはない。
『お前なんてヒーローじゃない!』
‐‐‐
『いや~来てくれて嬉しいよ』
俺はアレから急いで、新幹線に乗り、東京に来ていた。差出人は不明の謎のメール。
そこには仕事の依頼について記されてた。
〇〇様
はじめまして。私は株式会社【✖✖】の代表取締役社長の野田秀次と申します。とあるサイトで、お金を積めば、内容は問わず仕事を引き受ける何でも屋が居る。そんな噂を知人から聞き、調べていくと〇〇様の事が分かりました。
単刀直入に申し上げます。
〇〇様に暗殺の依頼をしたいです。
報酬は【10億円】
良いご返事を期待してます。
それから…
メールを返信を返すと、すぐに返事が返ってきた。そしてやり取りを交わし、今、俺は東京に向かっている。彼と会うために…
‐‐‐
『いや~まさか引き受けて貰えるなんて思わなかったよ』
高層階のビルの執務室。そこでスーツを着た男性が立っていた。
年齢からしてまだ30代前半ぐらいだろうか。この若さで、この規模の会社のトップになるのは並大抵のことではない。
『ダメ元で送ってみるものだね~』
愉快な人だ。それが俺がこの人に会って感じた第一印象だった。こんな人がなぜあんな依頼を…
『こんなに楽しそうなのに、なんで暗殺の依頼をしたのか、、』
……!?
『アハハ、顔に出てるよ』
心が読まれて少年は動揺する。
『僕ね。ホントにここまで来るのに沢山の経験をしたんだ』
男は少し寂しそうな目をする。その表情は何処か遠く、酷く疲れてるように感じた。
腕に着けられた高そうな時計に目を向け、少しほほ笑みながら、こちらに話し掛ける。
『…飯に行こうか』
‐‐‐
あなたはどうして生まれたの
…
あなたは何処からやってきたの
…
あなたは消えるとどうなるの…?
…
返事はない。
それでも僅かに『光』が揺れた気がした
ヒーローとは一体なんなんですか、、
『お兄ちゃん…』
‐‐‐
『なんか…庶民的ですね』
『そうかい?』
2人はすき家に来ていた。大企業の若手社長が、平日の昼間に、チェーン店のカウンターで注文メニューを覗いてる。
その光景は、何処か非日常を感じさせた。
場違いだぞ、、 あんた浮いてんぞ、、
『僕はノーマル牛丼が一番好きなんだ』
そう言いながら手際よく注文を済ませていく。ちなみに俺はうな重を特盛りで頼んでやった。
『僕は色んなモノを手に入れてきた。金も地位も名誉も』
コップにお水を注ぎながら一気に飲み干す。
紅生姜をお箸で救い、口に入れながら注文が届くのを待つ。妹には貧乏くさいから辞めて下さいって注意されたな…
想い出が頭を過ぎる
『そんな物には何の価値もなかったよ』
社長の声が思考の余韻と被る。
『僕には妻が居たんだ。世界で一番大切な僕のたった一つの宝物だった』
サユとの想い出の回想を邪魔されて、少し不機嫌になりながらも、紅生姜を口に運び、社長の話しを耳を傾ける。
『彼女は病気だったんだ…』
胸の辺りが締め付けられる。病院のベットの上で。静かに眠るサユを思い出して涙が溢れそうになる。
『どうなったんですか…』
社長は表情を変えずに、少し間を開けて、口を開いた。
『死んだよ』
…2人の間に、長い沈黙が流れる。
『僕は何もできなかったよ』
『あまりにも無力だった』
社長の目に怒りも哀しみも無かった。それでも僅かに社長の中で何かが揺れるのを感じた。
『彼女は言ったんだ。あなたは私の希望だって。それなのに、僕は彼女を救うことが出来なかった』
……再び2人の間に沈黙が訪れる。
7番テーブル。牛丼(並)
厨房の奥の方から声が聞こえてくる。
『おや、そろそろ商品が到着しそうだ!暗い話しはこれぐらいにして食べようか』
彼の表情はすっかり元通りに戻っていた。
『…いただきます』
‐‐‐
『いつまで寝てるんですか』
小さな少年はぐっすり寝ている。その表情はどこか安心してる。こんなに安らかな顔をしてるのは始めてみた。
『相当疲れてたんですね』
少女は小さな少年を優しく抱き締める。
『…無理はしたら駄目ですよ』
そして少女もゆっくりと目を閉じていく。
‐‐‐
少年は目を覚ます。
社長との食事が終わった後、何件かお店に寄って、お買い物をした後に家に帰ってきて、そこから記憶がない。
けど…"何かに包まれた様な心地良さ"だけが残ってた。
『久々にぐっすり寝れたな…』
さしぶりに人と外出した影響なのか、思った以上に疲労が溜まっていたみたいだ。
アレから社長とは色々と話した。と言っても、社長の身の上話がほとんどだったが…
※
『いや~そこから現実から逃げる様に仕事に没頭したよ』
飯を食い終わった後に、店内を出て、高そうな高級車に乗り込みながら、車内で社長は自分の話しの続きをし始める。
『ホントに色々あったよ。でも…そんな事は何も全く気にならなかったんだ。』
窓を見ると、綺麗な虹が薄っすらと見えた。いや、見間違えかも知れない。そんな風に考えてると、車は赤信号で停車する。
『社員も多かったんだよ?それでもコスト削減と利益を上げる為に働いてくれてた社員達を切りまくったんだ』
なんだこの最低な男は…
そう思ったが、俺には知らない世界があるのだろう。リーダーの責任って奴なのか俺にはよく分からない。
結果的にあんなに大きな会社の社長になったのだから、この人の言ってる事は正解なのかも知らない。
それでも、心の奥がざわってした。
そんな風にやり取りを思い出してると、スマホの通知が鳴った。社長からだった。
今日は楽しかったよ。
君と話して僕は確信したよ。君じゃないとそいつを殺せない。
明日、深夜に〇〇で待ってる。そこに今回依頼した、暗殺対象が居る。
頼んだよ。
昼間の楽しそうに牛丼を食べる社長の姿が脳裏に浮かぶ。
どうしてあなたは、、
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