第3話 光である為に
『や、辞めてくれ!』
一人の男が必死に頭を下げる。男の周りには、血だらけになった大人たちが地面に横たわっていた。
『頼む!見逃してくれ!荷物ならほら?返すからコレ以上は勘弁してくれ』
声が建物全体に響き渡る。
男は額から汗を滲ませ、顔が真っ赤に染まっていく。
ゴンッ 鈍い音がした。
血の付いたバットを片手に、吐き気を必死に抑えながら、地面に落ちた✖と荷物を拾い上げていく。
少年の泣き声がした気がした。
果てしなく遠く、そして直ぐ側に気配を感じる。
お前は誰なんだ…!
困ってる人が居たら、ヒーローは助けないといけない。
俺しかヒーローは居ないんだ…
もう振り返らない。
‐‐‐
小さい男の子がそこで泣いていた。
私はこの子の事を知ってる。会ったこともない。それでも私はその子の事を誰よりも良く知っている。
‐‐‐
少年はアレから寝ずに働き続けた。
荷物の受け渡し。依頼主からの調査依頼。サイトに書いてある仕事を、片っ端から受けまくった。
内容なんて何でも構わない。サユを救えるのなら俺はなんだってする。
困ってる人を助けるのがヒーローの役目なのだ!
‐‐‐
次の依頼を探そうとしたタイミングで、メールが届いてた。差出人は不明。リンクをクリックして、少年は強烈な吐き気を覚えた。
意識が朦朧とする。体温が下がっていくのを感じる。手足は震えて、立って居るだけで精一杯だった。
その時、電話が鳴った。サユの病院からだった。
『大変です!サユちゃんの心拍数が低下して、非常に危険な状況です。今すぐに手術を行わないと助かりません』
少年は遂に立ってられなくなり、その場に倒れ込む。
ヒーローは困ってる人を迷わず助ける。
勇気が一番。もう迷わない。もう振り返らない。
メールを返信して、少年は再び歩き出す。
少年の泣き声がした。
でも。少年の耳には届く事はもう無かった。
‐‐‐
大人たちの騒がしい声が聞こえてくる。
『なんの騒ぎですか…』
少女はため息を付く。
『コレだとゆっくり絵も描けませんね…』
少女は少年に視線を移す。彼は泣き終わった後に、ぐっすり眠っている。
『よくこの状況で寝れますね…』
少女は少し呆れながらも、少年の頭をそっと撫でた。
少女はまだ何も知らない。
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