第13話 白と黒

ぼくは前に出て母さまの正面にある、祭壇の上の鑑定水晶にそっと両手をかざした。


とは言っても、結果は分かってる。白銀色の柔らかな光が輝く、聖属性だ。

この結果は正式に国に届けられ、国立学校への進学が決定する。


「えええええええっ!?」

「こ、これは一体……!?」

「水晶の故障か!?」

「おい少年、何をしたっ!」


うん?


騒然とする大聖堂。

騎士も神父も領民も、まるで化け物でも見たかのような顔をしてぼくを見ている。


水晶を見ると・・・・


まるで夜空を凝縮したように、黒い渦が水晶の奥でぐるぐると回っている。

さらに外側には、墨のようなマナが生き物みたいに蠢いていた。


「……あ、あれえぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「真っ黒……だと?」

「こんな現象……見たことがない……」


ぼくの前で司祭の母さまは「まぁっ」と、

キラキラした大きな瞳をさらに丸くし、口を両手で覆っている。

どこか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「ちょっと待って!ぼ、ぼくは母さまと同じ聖属性のはずです!」

「どう見ても禍々しい闇の色だろうがっ!」


神父さまがぼくの声にかぶせるように叫んだ。

この家の者が、またやりおったな!って顔してる。


「……闇属性だ」


どよめく大聖堂。

母さまに促され、聖魔法を使うも――。


「ヒール!」

――ぽんっ!


杖の先から花弁が舞い散り黒紫の薔薇が満開になった。


「…………」


母さまに黒薔薇を差し出した姿勢のまま、ぼくは固まった。

母さまは口元を押さえ――。


大きな瞳をさらに広げキラキラと輝かせた。

そしてにっこりと微笑んで黒薔薇を受け取る。


「ステラ、ありがとう。とっても綺麗だわっ」


――女神のような満天の笑みである。


次の瞬間。


「わはははははははははははっ!!」


静寂を破り、場内が爆笑の渦に包まれた。





頭が真っ白になってぽっかーーーんとしたぼくだけど。


再び鑑定をすると、水晶はまばゆく白銀色に柔らかく光り、「聖」を示した。

光は澄みきった輝きで、聖堂中を暖かく照らした。


ほっと息をついた――その時だ。


鑑定水晶のその聖なる光の周囲に、

まるで夜空を逆流するような黒紫の渦が、ゆっくり、じわりと巻きついた。


白と黒。

聖と闇。


相反し決して混じるはずのない二つの光が、

まるで手をつなぐように水晶の中で絡みあった。


再び静寂が落ちる。

針が落ちても聞こえるってこういう事だと思う。



「……に、二属性持ち……だと……!?」

「しかも、よりにもよって”聖”と”闇”!相反する属性などありえぬ……!」

「さすがは、奇跡さまの子か………!」



いや神父さま、「こいつら…」っていうような目でぼくを見るのやめてください。

みんなも”母さまを見る目”と同じ目で、ぼくを見ないでください!

祈らないでぇ!!!



この日、ぼくは前代未聞の相反する二属性持ち、

聖と闇の属性を持つ子供として、記録されてしまった。

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