第12話 国民属性鑑定式

属性鑑定式の朝。

ぼくはまだ空が青くなりきらない時間にベッドから飛び起きた。


「よーし! 今日も走るぞ~!」


特別な日なのに、いや、特別な日だからこそ日課は外せない。

丘へ向かって全力ダッシュ。風が冷たくて気持ちいい。


黒薔薇はこの半年の間に沢山仲間を増やしていった。

数えてみたら――十本。

どれもぴんと背筋を伸ばしたみたいに咲いていて、

相変わらず宝石みたいにとっても綺麗。


「きみたち、今日もきれいだねぇ!」


一本一本に魔法をかけて、葉の汚れを落とし、根元に聖水をぱしゃぱしゃ。

黒薔薇はふわりと揺れて「もっと」と言ってる気がする。

 

「このまま本当に薔薇園になりそう!」


黒薔薇たちは、今日もつやっつやで機嫌が良さそうだった。



 

上機嫌のまま屋敷へ戻ると、属性鑑定式の支度だ。

今日はぼくも正式な礼服。

母さまも式に参加するため、聖衣をまとって支度中。


「うわ……母さま、今日いつもより光って見える……」


髪を整えて、礼服を着て、鏡を見ると――

なんか、今日はちゃんと“貴族の子ども”っぽい。

不思議と背筋が伸びる。


そして正午前、大聖堂へ。

はい、予想通りの光景がそこにあった。


「本日は鑑定式のため、関係者以外はお入り頂けません! 押さないで下さーい!!」


シスターさんが悲鳴のような声で連呼している。

入り口には母さまを一目見ようと領民がぎゅうぎゅう。

なかには花束を持ってる人までいる。怖い。


礼拝堂に入ると、すでに沢山の子どもが親と一緒に座っていた。100人くらいかな?

ぼくが入った瞬間、ざっと……と視線がぼく達に集まる。


「えっ、なに? なに?」


子どもたちの目が好奇心でキラキラしながらこっちを見ていて、ちょっと恥ずかしい。

母さまとぼくを交互に見てる。

 

 

そして、式が始まった。


ひとりずつ前に出て、水晶に手をかざし、

魔力の有無と属性を鑑定していきその内容を神父さまらが記録を残している。

手際よく流れ作業で割とサクサク進む。

母さまは一歩後ろで、それをにこにこ見てた。

うん、何もしてないね?させてくれないんだね?

特別司祭の意味が、最近何となく分かった気がするよ。

 

子供たちの鑑定の結果は――


百人くらい鑑定をしたけど、属性持ちは十六人。

やっぱり少ないんだなぁ、と思った。


そして。

神父さまの声が、礼拝堂に静かに響いた。


「ステラート・エルディア様。前へ」


空気がぴんと張りつめた。

深呼吸をひとつして、祭壇に立つ母さまの微笑みを確認してから、

ゆっくりと歩き出した。


――ぼくの番だ。

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