また書いてください
「言えなかった」という一言に、たくさんの気持ちが静かに包み込まれているように感じる掌編でした。卒業式や桜、進路といった場面が重なり合いながら、ほんの数センチの距離が縮まらないまま時間だけが過ぎていく、その感覚が胸に残ります。触れられない距離や、口にできなかった言葉が積み重なっていく描写に、静かな切なさがあります。途中で語られる音楽室の思い出も自然に溶け込み、三年間という時間の重みがやさしく伝わってきました。そこにあった想いは残り続ける――そんな余韻を感じさせてくれる一編でした。