第2話

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日比野ひびの、くん?」

 リコの言葉はおおよそ予想通りだったけれど、ちょっと驚いた風を装う。

「そ。日比野くん。灯野ひの、たまに一緒にいるところ、見るから」

 もじもじしながら尋ねるリコ。今のリコはいつも私が主役! とばかりに良くも悪くも揺るぎない自信を持って行動する、ただ我が強すぎて、また他者に遠慮することもないことから黒雪姫と呼ばれる、一種威厳すら感じる、あのリコとはまるで別人だった。

 そんなリコがたまにとは言え、あたしを──どうせ、ついでだろうけど──見ていたとは全然気づかなかった。と言うのもリコはいつも取り巻きに囲まれていて、どこにいても目立つ存在だからだ。逆に言えば一人の時を見たことがない。よく取り巻きに気づかれず、盗み見していたものだ。それともあたしが鈍感なだけだろうか。

「ゆ──日比野くんがどうかしたの?」

 いつもの癖で下の名前──日比野ゆう──を言いかけてしまうのを何とか飲み込む。

「まず、質問に答えてくれる?」

 ゆるくウェーブのかかった栗色の髪をいじりながら、聞き慣れたちょっときつい口調で言われた。

「仲が良いっていうか、付き合いが小学校から一緒なだけだから」

「付き合ってんの?」

 きた! もう聞き飽きたセリフ。それだけに返答もすらすらと出るのだけど。

「日比野くんとは小学校からの腐れ縁ってだけよ。あとはまあ、家が近いから一緒になるタイミングが多いっていうか」

「ホント?」

 うるうる瞳ですがるように聞いてくる。悔しいけれど元が良い容姿なだけに絵になる。チクショウめ。

 おいおい、リコよ。恋する乙女になってるじゃないの。いつもの高飛車タカビーなあんたはどこに引っ越したんですか? って言えたら気持ちが良いんだけど。

 ただ、リコの眼は真剣なものだった。定型の返答が申し訳ないなと思ったので、

「強いて言うなら、弟って感じかな。同い年の男子に言う言葉じゃないかもしんないけどさ」

 付け足したのが良かったのかいけなかったのか。

 リコの目が一瞬、細まった──ように見えた。ちょうど夕日が眩しさを増してきていたので、ハッキリとは分からなかったけれど。

「そ。なら良かったわ」

 リコも追及してこなかった。確認したかったのはあたしと勇が付き合っているかどうか、まずはそれだけをハッキリさせたかったのだろう。

 そこでふと思い出したので、今度はあたしの方から聞いてみた。

「あの、ちょっと聞いていい?」

「なに?」

「リコ……さんって、付き合ってなかったっけ? えっとサッカー部のキャプテンの……」

 リコのあだ名である黒雪姫は、その名の通り、王子と一緒にいることが多いからだ。そんな彼女がフリーであることが変に思われたのだが、

「別れたわ。思ったほど良い男でもなかったし。それにサッカー部じゃなく、バスケ部よ」

 ああ、そうですか。そら失礼しました。

「じゃあリコ……さんは」

「灯野、さん付けいらないよ」

 くすくすと口に手を当てて笑う美少女。それだけで男子はころっと行くんだからなあ。男ってバカだよ。

「えっと、じゃあリコはさ、日比野に告白すんの?」

 あたしの問いにリコはクルリときびすを返す。スカートの裾がまるで羽のように広がり、舞う。

「ちょっと違うわね。付き合うのよ」

 言い切ったリコの顔には、揺るぎない自信に満ち溢れていた。

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