土食ってた小学生、社会科見学に行く
ぴよぴよ
第1話 土食ってた小学生、社会科見学に行く
小学校の頃。
社会科見学で、私は泥棒デビューをしてしまった。
とんでもない罪を犯してしまった。
なぜあんなことをしてしまったのだろう。たまに思い出して、「なんて馬鹿なことをしたんだろう」と辛い気持ちになる。
子供の頃、社会科見学に行った。確か四年生だったと思う。
当時の私は、あんまり社会科見学を楽しみにしていなかった。
他の学校はどうか知らないが、私の学校では、社会科見学にお菓子を持って行くのを禁止していた。弁当も白米だけ持参するのを許されていた。
お菓子や弁当が許されていたのは、遠足かバス旅行の時だけだった。
これを聞いて、非常につまらないと思ったものである。
社会の見学なんてどうでもいい。普段の生活と違うことがしてみたいものだ。
見学するコースは、下水処理場と浄水場、そしてゴミ処理場だった。
教科書に載っている場所の見学である。
お菓子工場とか食べ物系がいいなと思っていた私は、水とゴミか、と落胆した。
まず浄水場に向かった。
どうやって川やダムから流れた水が綺麗になるか、係の人が丁寧に説明してくれた。
飲み水の作り方を教わった。
プールのような施設で、綺麗な水がたくさん並んでいる。
「この蛇口から、綺麗にしたばかりの水が出てきます」
そう係の人に言われて、飲んだ。やっぱり普通の水の味がした。しかしなぜかおいしく感じた。
みんな「うまい、うまい!」と言って飲んでいる。
小学生なんてその場の雰囲気に呑まれる生き物だ。普通の水でも美味しく感じるのだろう。
水の見学なんて嫌だと思っていた私だが、だんだん面白さを感じるようになってきた。
ただの水だと思っていたのに、薬品を様々入れて、飲めるようにしていること。
浄水場の人は、24時間体制で水を作っていること。
いろいろ知れて勉強になった。
次に下水処理場に向かった。
こちらはあまり覚えていない。臭いがきつかったことは覚えている。
辛い中、いろんな大人が頑張って働いているのだな、と感動したものだ。
ゴミ処理場は、ゴミを運ぶクレーンの操作をさせてもらった。
リサイクルコーナーも見せてもらえて、たいへん勉強になった。
しばらくして、昼時になった。
我々はバスで、道の駅のようなところに来た。今回はこの場所を借りて、昼食にするのだろう。
正直、とても腹は減っていたが、持参しているのは白米だけだ。
そんな時、先生が何かを持っているのが見えた。
「皆さん、白ごはんしか持ってきていないでしょう。先生たちがコロッケを持ってきましたよ」
この時はやった!と大声で叫んだものだ。
今思えば、こっちは白米しか持ってきていないのに、用意されているおかずがコロッケだけか、と突っ込みたいところだ。しかし当時は小学生。
コロッケ一つで大喜びした。
「先生最高!」とみんなで叫んだ。
コロッケだが、あんまり美味しくなかった。教師が百人分を購入して、ここまで持ってきたのだから、衣が冷えて固まっていた。
それでもあんなに喜んだのはどうしてだろう。なんであれ、みんなで食べると美味しく感じたものだ。
「先生がここまで頑張って持ってきたんですよ。ありがたく食べてください」
先生たちは何だか恩着せがましかった。
今ならわかるが、先生たちは子供に弁当を持ってこさせろ、と思っていたに違いない。
コロッケなんか、わざわざ持ち歩く羽目になったのだから、辛かったのだろう。
そして学校側が弁当を持ってくるな、お菓子は禁止、なんてしたからだろうか。
私たちはこの後、悪事に手を染めてしまうことになる。
コロッケと白米だけじゃ、とてもじゃないが足りない。食べ盛りの小学生なのだ。
お腹が減ったな・・と私は腹に手を当てていた。
社会科見学は大変勉強になった。とはいえ、腹が減る。
道の駅で休憩中。
子供達は広場で楽しく遊んでいた。見学が終わった後は、こうやって時間を潰すのだ。
小学校ではよく使われる手法、余った時間の過ごし方である。
適当に遊ばせとけば、子供って喜んでしまうのだ。
道の駅には、お土産物売り場があった。そこへ行っても特に怒られなかったので、遊びに飽きたものたちは売り場へ向かった。
私たちの通っていた小学校には、本当に様々な子がいた。
田んぼと畑が広がる、とんでもない田舎から来る子。普段、お菓子なんてほとんど食べられない子。いろんな子がいた。
そんな子たちにとって、お土産物売り場は最高の冒険スポットである。
店には地元の名産品が数多く売られており、お菓子や冷凍食品が並んでいた。
そして土産売り場にはもちろん、試食コーナーがあった。
「これ、食べてもいいのかな?」私が友達に尋ねると、
「食べていいよ!だって試食だよ!」と言われた。
社会科見学中に、お菓子を食べていいものか。かなり悩んだが、まあ良いだろう。
我々の昼食は、コロッケと白米だけなのだ。
試食の一つや二つ、食べてしまって構わんのだろう。
地元の菓子なんて興味もないのに、口に入れた。
美味しい。なんて美味しいのだろう。
何だかとんでもなく美味く感じる。確かこの時食べたのはクッキーだった。
さっくりとした食感に、挟まったチョコレートの甘みが舌の上で弾けていく。
これは間違いなく美味い。
友達を見ると「これ、美味いよ!美味い!」と言いながら、何個も口に入れていた。
他にも試食用の菓子がいくつか並んでいる。
私たちは夢中でそれらを食べた。お腹が減っているせいか、いつもより美味しい。
それが悪いことかどうか、なんてお構いなしに食べた。
試食コーナーで食べ放題ができるらしい。そんな噂はあっという間に子供に広がった。
先生たちが「あはは」と口を開けて談笑している間に、土産コーナーに次々と子供が入っていった。
そしてみんなで「美味しい、美味しい」と試食品を食べまくった。
「どうぞ」と言われて出されるお菓子とはまた違う。こうして無料で、特別に食べられるものだからこそ、一層美味しいのだ。
子供が一人、二人食べたところで減ることはない試食だが、これが数十人、百人となるとどうなるだろうか。
当然、試食の菓子は減っていく。
しばらくて。
「試食コーナーのお菓子を食べたのは誰ですか!!」
先生の怒りの声が聞こえてきた。
試食コーナーのお菓子、食べてはいけなかったのだ。あんなに美味しいのに。自由に食べていいですよって、置いてあるのに。
怒られると思っていなかったので、私は衝撃を受けた。
試食をしたものたちは、集められることになった。
「試食コーナーは、お土産を買う人のためにあるものです。子供が食べたいからと言って食べるものじゃない!買いもしないのに食べるのは泥棒と同じだ!」
そう言われて、ああそうかと気づいた。お菓子を購入できない自分たちが、やたらと食べていいものじゃなかったのだ。
なんてことをしてしまったのだろう。
こんな形で泥棒になってしまうなんて。泥棒デビューが試食コーナーだとは。
多分、店側からクレームが入ったのだと思う。先生たちも、こんな予想外のことで子供を叱らないといけないなんて、大変だ。
社会科見学が楽しかったとか、コロッケもらって嬉しかったとか。そんな諸々が吹き飛んだ。
私たちはしばらく、泥棒として学校生活を送らないといけない。
帰りのバスの中は、暗い気持ちで過ごした。
家に帰ってからも、泥棒になったのかと思うと、暗い気持ちは抜けなかった。
母に試食コーナーのことを話すと、
「それは怒られたでしょ。美味しかった?」と斜め上の質問をされた。
母はそこまで気にしていないようだったが、私たちが犯した罪は消えないのだ。
皆さんは、社会科見学の思い出ってあるだろうか。
私たちは、浄水場やゴミ処理場だった。皆さんはどこへ行かれただろうか。
よければ教えていただきたい。
土食ってた小学生、社会科見学に行く ぴよぴよ @Inxbb
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます