路上占い、あれこれ76【占い師は人情を知る】

崔 梨遙(再)

1口サイズの855文字です。読んでください。

 僕が若かった頃、よく行っていた食堂で食事をしていたら、オッサンと僕の2人しか客がいなかった。食事時では無かったからだ。オッサンは、オムライスをキレイに半分だけ食べて俯いていた。


 そのオッサンは、僕が店に入る前から半分のオムライスとにらめっこしていたが、僕の食事が終わった時までにらめっこを続けていた。すると、オッサンが女将さんに話しかけた。


「すみません、オムライス半分残したんで、料金も半分でいいですか? すんません、今、お金が無いんですわ」


 すると女将さんが言った。


「何を言うてはるんですか、困った時はお互い様ですよ。どうぞ、残りも食べてください。お代は次に来てくれた時でいいですから」


 オッサンは、


「すんません」


と言って、泣きながら残りのオムライスを食べ始めた。僕も泣いた。普段、女性として意識したことの無い女将さんが大美人に見えた。



 後日、同じ食堂。


 外国人風の男が大きなカバンを持って入って来た。男はテーブルの上にカバンを置き、カバンを開けた。チョーカーとか入っていた。


「スミマセン、コレデ何カ食ベサセテクダサイ」


 すると、女将さんは言った。


「何を言うてるの、困った時はお互い様やんか。お代は今度でええよ。玉子丼でええかな? ちょっと待ってや」


 男は、泣きながら玉子丼を食べた。僕も泣いた。女将さんが輝いて見えた。



 後日、カフェ。


 またオムライスを半分残しているオッサンがいた。同じオッサンなのか? オムライスを半分残すのが流行っているのか? わからない。だが、僕には今後の展開がわかっていた。


「すんません、オムライスを半分残しました。儂、半分のお金しか持ってないから、これで許してくれへんやろか?」

「何を言ってるんですか? 無銭飲食で警察を呼びますよ」


 

 そのカフェには人情は無かった。女将さんの人情を思い出した。僕がオッサンのオムライス代を払った。


 お礼を言われるかと思ったら、


「お金を払ってもらったから、これ、全部食べてもええんやな?」


 オッサンは残りのオムライスを食べ始めた。



 僕は虚しくカフェを後にした。女将さんに会いたくなった。




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路上占い、あれこれ76【占い師は人情を知る】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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