第27話 魔物の群れ

「メル! ……メル、無事か!? 頼むから返事をして!!」


 どれだけ魔力核を破壊しても湧いて出てくる魔物の群れを大鎌で薙ぎ払いながら、キースは祈るように声を張り上げた。


 群がり取り囲んでくる影と戦う間に、メルナリッサと距離が離れ、少し前から、彼女が無事を確認してくる声が聞こえなくなっていた。


 足元に広がった、まるでヘドロのように纏わり付いてくる黒い湖の中、敵をいなしながら必死で彷徨い、彼女を探す。


 どれだけもがいたのか、影達の間、山のように折り重なる黒い帯の塊から、助けを求めるように伸ばされたメルナリッサの腕だけが見え、キースは走った。


「メル!!」


 手を取り、ずるりと闇から引き摺り出すと、キースはぐったりとしたメルナリッサを片手で抱え上げ、その身を守るように抱きしめながら、なおも彼女を奪おうとする魔物達に大鎌を振るい魔力核を破壊していく。


「大丈夫か!? メル!? メル!!」


 メルナリッサを抱えたままでは、全力で戦う事も、彼女を守り抜く事も難しい。


 迫る魔物の群れから逃げるように走りながら、キースは腕の中の彼女に声をかけ続けるが、メルナリッサは魂が抜けたような虚な瞳でくうを見つめるばかりで返事がない。


(様子がおかしい……。早く彼女を安全な場所に連れて行かなければ。でもこの魔物の群れを何とかしないことには……!)


 焦りと動揺で、頭がまともに働かない。

 逃げるか戦うかで、そのどちらもが中途半端になり、ついには振り上げていた腕に、大鎌もろとも魔物達の黒い影が絡みついてしまった。


 もう駄目だ。

 そう思った、その時──。


「キース!! じっとしていろ!!」


 空から力強い声が降ってきて、キースの瞳にじわと熱が集まった。


「ジークヴァルト様……」


 見上げて情けない程に弱々しい声で名を呼べば、魔力でできた大きな竜の翼を目一杯はためかせ、瞳孔を三日月のように縦に伸ばし、物凄い勢いで頭から降下してくるジークヴァルトと目が合った。


「すまん、遅くなった」


 ジークヴァルトはそう言って、落下の終着点とばかりに逆さのままキースの肩に驚く程軽く手をつくと、グルンと身体を捻りながら、キースの周囲に円を描くようにザンと長剣を走らせ、絡みついていた魔物を一気に切り払った。


 着地したジークヴァルトの手に握られているのは、彼の魔力で作られた、透明に淡く光る長剣。

 舞うようにそれを振るい、迫ってくる魔物達の魔力核を造作もなさげに次々と的確に貫きながら、ジークヴァルトはさっとメルナリッサに視線を走らせた。


「キース、メルナリッサは恐らく。その状態が長引くと自我を失ってぞ。お前の魔力を心臓を中心に流し込んで、早く魔力を吐き出させろ!」


「わかりました!」


 キースは大鎌を消し去ると、片膝を立ててしゃがみ、抱き抱えるメルナリッサの胸の間に手をあてた。


「メル、大丈夫ですからね。絶対助けますから……」


 泣きそうになるのを堪えながらゆっくりと魔力を流せば、メルナリッサがゴホゴホと大きく咳き込み、口からごぽりと大量の黒い魔力が溢れ出た。


「キー……ス……」


 瞳に光が戻ったメルナリッサが、掠れる声で言うと、キースは彼女を強く抱きしめた。


 その間にも、ジークヴァルトは次々と魔物を滅し、敵の数は彼が到着した時の半分程までに減っている。

 

 まだ動く事ができないメルナリッサを抱きしめたまま、キースがジークヴァルトの背に向かって叫んだ。


「ジークヴァルト様、この魔物達とは別に、人型の魔物がいます! 恐らく形を成してから四百年程は経っているはずです。『からの器と遊ぶ』と言って姿を消しています! ご注意なさって下さい!」


「何だと!?」


 ジークヴァルトは、キースの報告に顔を顰めた。


(どういうことだ? まさかが……? 『』と言っていたなら、あの木の所へ……へ行くということか? だとしたら、ラーラマリーが危険だ。嫌な予感がする……。早くこいつらを処理して、城へ戻らなくては……!!)


 長剣に込める魔力をぐんと増やし、焦る気持ちを抱えたまま、ジークヴァルトは一気に大きく腕を振るって魔物をほふり続けた。

 

 


  

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