この作品もそうであるが、作者の作品には、他人の生活を覗き見るような窃視症めいた欲望を湧き上がらせる。それはひとえに、作者が日常のリアルを徹底して凝視しているからだろう。本作にも、その透徹した眼差しは遺憾なく発揮されている。一見、何不自由のない幸福な家庭。その薄皮をそっと一枚剥ぎ、内に潜む相貌を静かに露わにする。そこにこそ、この作者の真骨頂がある。
こちらの作者さんのお話は、思考と行動が地続きでスゥッと氷の上をスケート靴で滑るように物語が進んでいくのが心地よいです。積み重ねられた暮らしと鬱屈の末に、そこから解放されるために己が行動を起こす。自分が決めたことだから後悔も怯えもない。気持ち良いくらい清々しいです。人間の感情を読むのが好きなのでこの方のお話をいつも拝読させていただいています。現実世界が舞台の、一般人が主人公のお話ですから、読者さんの中には読んでいて救われる方もいるんじゃないかなと思います。