A beautiful crossroads

沙華やや子

A beautiful crossroads

 ンー……ど~ぉやって、このキラキラ感を生々しく、でも、ふんわりと……キリトれるかなんだよねー。


 ふ~……。なおのハートの中身も切り取ってね、みてみたいなー……。こんなままじゃ辛いわ。


 手にしかけたデジカメをそっとリュックの上に置く坂名さかな


 閉じこもってばかりいちゃ、ふたりの関係もこのまんま滞っちゃいそう、そう思い久しぶりのウォーキングに繰り出したのだ。坂名は歩く時は必ずカメラを携え、軽く2万歩は歩く。


 坂名、49才・レディとナオ、48才・男性はおつきあい4年目。互いに波乱万丈を乗り越えてきた。特に坂名は……。ふたりとも離婚歴があるが坂名は2度経験している。


 この頃はナオの編集会社が急激に羽振りが良くなり、頼られている編集者のナオは大わらわ。睡眠不足だし、残業がない日はないしでカリカリしている。


 決して嫌いになったわけじゃない、坂名を。彼は真剣に坂名を愛している。


 わかるよ、ナオ……わかるんだけど、凄く淋しい。2カ月もデートしてないよ。


 ひきがねは、そんな多忙なナオに向かって逢いたい逢いたい逢いたい! と半ば駄々をこね、坂名がマシンガンを放った、という喧嘩だ。


 ナオが自由に動けないのには仕事以外にも理由がある。中学生の息子が居るのだ。そう、彼はシングルファーザーだ。息子君のために、坂名とのお付き合いは黙り続けている。坂名にしてみれば「内緒にされているおんな」というレッテルを感じ、孤独感が否めない。

 けれど、そんな坂名にも巣立って行った大学生の娘が居るので、父であるナオの気持ちが痛いほどわかる。

 また、坂名自身、パパがいない中で育ったが、ある時母親から再会を許され会った際、パパが恋人を連れてきて一緒に植物園へ行った、言いようのないイヤさを忘れられない。サボテンのトゲがこのおばさんに刺さればいい! って思ったもん!


(あたしのパパ……)と少女は焼きもちを焼き、なんだか二度棄てられた気分になった。だから……。


 この頃はお家に引きこもりがちの坂名。写真もほとんど撮りに行かない。久しぶりに歩くと、多少は気分が晴れる。


 緑の風。妖精の棲む花々。音符が跳ねる小川。仰ぎ見れば大きな青空。笑顔のおひさま……高い声でチュルチュルと小鳥は歌う。優しい。


 ンーと心が伸びをする。


 帰って、撮った写真60数枚をパソコンへ移した。見ると……アングルも色も、光の加減も冴えないよ。がっくり。肩を落とす坂名。カラン、カラン。グラスの氷の音を鳴らす。のどにしみわたるカフェオレが美味しいのが救いかな。


 ナオ、まだ残業中ね、きっと。まだ18時前だもの。突然来てくれたらうれしいのに。


 ナオが坂名とデートするときは、ナオの自宅近くに暮らして居るナオの母親が息子君を見ている。


(ナオ……逢いたい。あたし、もう、すねちゃってるよ?)


 夕空をしばしベランダから眺めていた。宵の明星が見えるまで。長い時間ボーっとしていた坂名。

(ああ、ナオォ……? ナオ。 あたしが金星なら、あなたはすぐそばに寄り添ってくれる木星のはずじゃない……)


 その夜たまりかね、坂名はすれ違い中のナオに電話をかけた。普段は突然かけたりしないのだ、息子君のためにね。でもメッセージへの返事が来なことに耐えきれなくなってしまった坂名。


 3回だけコールし切った。するとしばらくして、ナオが電話をくれた。


「ナオ、お疲れさま。ごめんなさい、突然。ナオ……」

『坂名……』疲れた声だ。

 坂名は伝えた。

「ナオ、今度こそあたしを信じて欲しいの。わがままはもうおしまい! お願いよ。ナオに逢えないなんて、あたし生きていけない!」


 坂名は正直に言った。怖がるだろうけど言った。だって、坂名はこれまで自殺企図をしている。精神科にも通っているのだ。(脅しなんかじゃない。ナオが居ない人生は自分がタバコの吸い殻になっちまった気分だ。自己肯定感低いし、泣き虫だし、意気地なしのネクラよ? なにが悪い。あたしはそんな自分で堂々と居るわ。だって、あたしはあたし以上でも、あたし以下でもないじゃん)


『坂名……』名前だけ呼んで押し黙ってしまう。

「なにか、云ってください!」坂名は泣いて居る。

 とめどなく溢れるのは情念に、わらべの想いに、ナオへの恋慕。トラウマの塊だから、時にナオをパパのように感じてしまう。


『坂名、明日土曜日だから仕事が終わったら寄るよ。話そう』


 なにを話すの?! こわい!

「今言って。スキって言って! ナオ、もう一度別れ話をする気ならもう来ないで!」泣いて言葉を詰まらせながら坂名は訴えた。

『ちがうよ、坂名……落ち着いて。気持ちがあるから話をしたいんだ』

 口下手なナオが必死で伝えた言葉。


 希望を持って良いのかどうかよくわからないが、坂名は勇気を出し気持ちを切り替えた。「はい……待っています」


 モヤモヤするまんま朝を迎えた。


 いつもなら……ナオが来るとき、エプロンをしてごちそうをはりきって作る坂名。けれど、自分を、ナオの愛を信じきれない、お料理なんてする気になれない、ユウウツで。


 朝、ナオからメッセージがあった。『仕事の段取りで時刻は言えないけど、なるべく早く行くよ』『はい……ナオ、愛しています』と坂名は返した。


 いつものように胸が躍らない。自己嫌悪している。ナオは昔云ってくれた。


「あたしのどこが好きぃ?」って甘えた時、最初「ぜんぶ」と云ったから「具体的に教えてほしい!」と愛の言葉をねだると、「明るくて、可愛いところ」と、恥ずかしそうにしながら見つめてくれたよ?


(あたし、お花のように綺麗な女で居たいわ。この黒髪だってナオのためにあるの。恋愛アディクト上等よ。依存しない人間なんて存在しないわよ、きっと?)


 ピンポーン。夜7時前にチャイムが鳴った。ナオ!


 玄関へ駈けて行く時やっぱうれしくなって来た。


「ただいま、坂名」「ナオ―――――!」はやるココロ、イチャイチャしたい気分を押さえ、坂名はお部屋に招き入れた。ナオは仕事で疲れているに決まっているし、「話そう」と云ってくれたのだもの。


 リビングのソファーに腰かけるナオ。今日はノンアルを準備していなかったので、ナオの好きなアイスコーヒーを淹れた。

 坂名もナオの隣に座った。


「坂名……」

「はい」

「息子が、手が離れるまで時間がかかるけど、待ってくれる?」

「ン?」どういう意味? もしかして……?

 ナオは少し深い呼吸をしたあと、はっきりと云った。

「結婚しようよ。愛してるよ、坂名」


 う、うそ……。坂名の瞳からは花びらが舞うように次から次へと涙の粒が溢れ出た。

 自分がナオのお嫁さんになれるだなんて思っていなかった。それでもナオに一生尽くすと誓って居た。


 キスしたふたりは重なり、光に溶けた。


「あたしの木星さん……!」

「ン? 坂名、なにそれ」キャハ♡


 坂名は笑ってばかりいた。


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