高 妍『隙間』を読む

『隙間 1』高 妍(ビームコミックス)

『隙間 2』高 妍(ビームコミックス)

『隙間 3』高 妍(ビームコミックス)

『隙間 4』高 妍(ビームコミックス)



『隙間 1』高 妍(ビームコミックス)


国境線なんか越えて。1&2巻、同時刊行!


「『隙間』を読んだ、誰か、お願いだから彼女の覚悟や怒りや叫びを、正面から受け止めて投げ返してあげてくれ。音楽でも、手紙でも、映画でも、もちろん漫画でもいい。とにかく、真っ直ぐに応答してほしい。そして、あなたは一人じゃないと伝えてほしい。その連帯の声が力強く挙がること。それがこの作品に触れた同時代の人間の責任であり、喜びだと思う。」

――是枝裕和(映画監督)


「人の感情はどこから来て、どこへ向かうのだろう?」


台湾・台北に暮らす女子大生の楊洋(ヤンヤン)。心をすり減らしながらも懸命に介護を続けていた大切な祖母を亡くし、深い悲しみに沈む日々を過ごしていた。さらに、想いを寄せていた男性には別の恋人がいて、自分を愛してくれない……。


「この残酷な現実に“さよなら”を告げて、私は行く。異国・日本へ。“はじめまして”を見つける旅へ」


好きな音楽を聴き、本を読み、映画を観て、恋愛をして、普通の大人になりたかった“私たち”の、青春の“怒り”と“記憶”。


高橋源一郎の「飛ぶ教室」のゲストで高妍が出ていて、その時にコミックの話もしていたので読みたくなった。


沖縄と台湾が似ているという話。台湾から来た留学生・楊洋(ヤンヤン)が沖縄の人々と交流することと、台湾時代に感じた疑問と、漫画は沖縄と台湾が突然入れ替わったりしてわかりにくい部分もある。台湾の国家というのもわかりにくいのかもしれない。


そんな中で台湾の国家に疑問を抱く楊洋だった。教科書で習う歴史ではなく、自ら考える歴史についての漫画。最初のマッチのデザインがいい。懐かしさを感じる漫画だった。


エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチエ)少年殺人事件』は何よりも自由を求める映画だったから、日本でもヒットした。


当時はその背景を知るよしもなかったが、高妍(ガオ・イェン)の漫画を通して知ることができたということを何よりも高妍自身が言いたかったのだろう。


私は知らないことが多すぎる。台湾のことも、沖縄のことも、日本のことも。

でも、こういう漫画を通して知ることができるのは、何よりも力になる。この漫画のヒロインも台湾の歴史を知らないことから学んでいくのだから。


『隙間 2』高 妍(ビームコミックス)


「ニーハオ、新世界。はじめまして、“私”。1&2巻、同時刊行!」


「埋まらない恋の隙間と、国と国の隙間。政治と民衆の隙間。日々、迷い悩み翻弄されることは多いけれど、生きることの根本の愛おしさを信じる。高妍さんの紡ぐ物語にはいつもそれがある。だから、好きだ。」

――江口寿史(漫画家/イラストレーター)


「琉球と台湾の歴史って、似てると思うんだ」


留学生として沖縄での暮らしを始めた台湾人・楊洋(ヤンヤン)。沖縄で生きる人々、そして同じく留学生として日本にやってきた中国人の李謙(リーチェン)や台湾人のワンティンと関わる中で、彼女は自身と他者、母国と沖縄、それぞれのアイデンティティに向き合うことになる。


一方、台湾では楊洋(ヤンヤン)が想いを寄せる青年・Jが、国民投票に向けて活動を活発化させていた。


異なる土地でそれぞれが抱える葛藤と希望は、やがて――。


「怒りも悲しみも、全部。行き場のない感情を乱暴に撒き散らしてでも、伝えたい想いがあった、あの頃」


ひまわり学生運動、表現の自由、同性間の婚姻の保障、国民投票。私たちが私たちであり続けるために、私は飛び出す。“怒り”と“愛”を抱きしめて。


沖縄にいて国民投票に参加できない無力さの中で、日本人の親友が投票箱を作ってくれたシーンが良かった。その日本人は見返りを求めなければ、何をしても自由だという。また最後に台湾の諺を紹介するのもいい。「籠の中で生まれた鳥は、飛ぶことを病気だと思ってしまう。


『隙間 3』高 妍(ビームコミックス)


「知らないこと、わからないこと。私にはまだ、たくさんある」


忘れられないあの人、忘れてはいけないあの歴史、もう一度見つめ直す私の住むこの世界。


見ないふりが上手になってしまった人にこそ触れてほしい。無視しない人生を選ぶことは確かな生きる力を得るということ。この物語はそんなきっかけをくれる。


紛れもなく自分はこの世界の住人だと心が溶かされる、台湾と沖縄の往復切符。

――吉岡里帆(女優)


「あなたのことが、好き。知ってるでしょ、ねえ?」


台湾・台北に住む青年・Jへの届かぬ想いに心を痛める楊洋(ヤンヤン)。台湾にも沖縄にも居場所を見つけられない彼女は、亡き祖母との記憶を手繰り寄せながら、自らの未来を模索する。「私が、私であるために」――母国と似た風の中で、彼女は立ち上がる。台湾と沖縄に、絶望と希望に、私とあなたに、手を伸ばす……。


「二二八事件の犠牲者は台湾人だけじゃない。琉球人も確かにここにいたんだ」


歴史と文化、そして植民地化された悲しみを共有している台湾と琉球。それぞれの歴史と人を見つめることで、楊洋(ヤンヤン)は台湾人としてのアイデンティティを確立していく。


『隙間 4』高 妍(ビームコミックス)


「歴史は今日も紡がれる。私とあなたがいるから」


声が大きな者による単純化された歴史(ストーリー)、世界を覆い尽くすその暴力性に、高妍の作品は静かに、しかし全力で抗っている。

――宇多丸(RHYMESTER)


「私たちにはまだ時間がある。一緒に沖縄のことを知ろうよ!」


祖母の死、そして報われぬ恋。すべてを振り切るように飛び込んだ留学生活も、終わりを迎えようとしていた。


「私たちも、台湾のことをもっと知りたいんだ!」


植民地化、二二八事件、ひまわり学生運動、表現の自由、沖縄戦……。


葛藤の歴史を抱える台湾と沖縄を見つめ、自らを見つめ、未来を見つめる楊洋(ヤンヤン)の、そして普通の希望が欲しかった“私たち”の、青い覚悟。


台湾と日本、歴史と現在、社会と個人、私とあなた……名もなき隙間に光を見つける、私たちの物語、完結。


ななみの登場がよくわからなかったのですが、ああいう女の子はよくいるような。自然と力をもらえますね(シスターフッドになっている)。山羊の化身なのでしょうか?先日、カルメン・マキの「山羊の歌」を教えてもらったので。


あとがきが「長春花月桃花」も音楽のようです。


ロックで一瞬ストップモーション(ブレイク)をかける“隙間”の音楽が好きなようで、それはモラトリアムとして自分探しを許される時間だという。英語でいう“ギャップ・イヤー”ということらしい。


そんな留学体験の一年間の中で、様々な知らない台湾や沖縄の歴史を学んでいく。それは学校の教科書では教えなかった歴史であり、現実に「ひめゆりの塔」の話が捏造されたと言う大臣が現れる中で、台湾有事の必要性が盛んに言われ続けている社会である。


最後のページに図書館のカードが描かれていたのも芸が細かい。

こういうことを知るには、まずは図書館からだろうか?

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文学レビュー 宿仮(やどかり) @aoyadokari

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