一週間の仇

一週間の仇

【月曜　0：14　－シーツに涙－】

涙で濡れた白い布

紅（あか）い花咲く白い布

タバコの匂いが悔しくて

汗の匂いが悲しくて

私は逃げる夢の中

逃げても無駄だと追いかけてくる

サイドチェストに置かれていたのは

偉人の描かれた紙切れ五枚と

ラインのID　羅列（られつ）された英数字

掴（つか）んで睨（にら）んだ　滲（にじ）んで染まる

薄明かり

トイレに篭（こも）った

自尊心

取り戻さなきゃ

自尊心

【火曜　7：06　－ルージュは語る－】

引いた紅（べに）には血が宿る

鏡に映る冷たいまなざし

失くしたものは帰らない

奪われたものは戻らない

代わりに得たのは紙切れだけで

湿ったゴムと同じもの

【水曜　20：37　－笑う女－】

アハハと笑う　ウフフと微笑（ほほえ）む

皿に盛られたサラダのトマトが

可愛い顔して笑ってる

それを見ないフリをして

周りに合わせて　アハハと笑う

笑う　笑う　笑わなきゃ

貼り付けられた仮面の奥で

惨（みじ）めな女が泣いている

笑顔の裏で　泣いている

【木曜　18：28　－へやにひとり－】

どうしようもないほどひとりになった

きがくるいそうなほどひとりになった

かめんをはずしたみじめなおんな

こころがこわれたあわれなおんな

どこかにわすれた　じそんしん

とりもどさなきゃ　かえしてもらわなきゃ

おんなのかおをてらしだすのは

ぽちぽちおくる　「またあいたい」

【金曜　22：57　－今（こ）宵（よい）咲きませ　紅（くれない）の花－】

アハハと笑う　ヒヒヒと嗤（わら）う

挿（さ）さったままに　刺し込んだ

咲きも咲いたり紅（くれない）の花

虚（うつ）ろな目をして　カラカラ嗤（わら）う

意思無き男の目に映るのは

五枚の紙切れとラインのID

やっと帰った

自尊心

女の元に返ってきたのは

トイレに流した

自尊心

人でなしだと呼ばれても

【土曜　12：46　－青空－】

口紅だけが知っている

失くしたものと取り戻したもの

両手首にて冷たく光る

秩序（ちつじょ）を象（かたど）る銀色の輪

それでも女は　晴れ空のように

──口紅だけは知っている

幕引きは静かに　だけど堂々と

拍（はく）手（しゅ）喝（かっ）采（さい）

恐（きょう）悦（えつ）至（し）極（ごく）

これにて閉（へい）幕（まく）

また会いましょう