第24話『揺らぎを“読む”』
影がざわつく。
シェルヴァの周囲では、光も風も変わらないのに、“立ち位置だけ”が常に揺らいで見える。
ルナリアは息を整え、自分の足元――影に意識を集中させた。
「影は私。なら揺れの“癖”があるはず。」
シェルヴァは、微笑んだまま足を前へ滑らせる。
その一歩が踏まれるたびに、ルナリアの影がまたわずかにズレた。
「またズレたね。どの影があなたなのか……分からなくなるでしょう?」
「残念だけど、さっきよりは冷静だよ。」
ルナリアは影の揺れをじっと見た。
ズレる方向。
ズレる強さ。
ズレるタイミング。
完全にランダムに見えて、実はシェルヴァの足の運びと必ず連動している。
「あなたが動くたび、影もほんの一瞬だけ前に傾く。」
シェルヴァの笑みがわずかに緩む。
「気づいたね。」
「揺らすなら読めばいいだけ。」
ルナリアは一歩、地面を踏みしめる。
影が揺れた瞬間に逆方向へ踏み込み、影の軌跡を安定させた。
シェルヴァの足が柔らかく動いた。
瞬間、周囲の位置がにじむ。
世界が複製されたように見える。
だがルナリアは動じない。
「揺らしても、影の“根っこ”はここにある。」
彼女は手を地に触れ、影を自分の身体とぴったり重ね合わせた。
揺れても、ブレても、中心だけを見失わないように。
影の軸を一瞬だけ完全に固定する。
シェルヴァの表情が、初めてわずかに険しくなる。
「……影を……固定した……?」
「できるよ。影だって私だから!」
ルナリアの影が、シェルヴァの影をかすかにつかんだ。
シェルヴァが目を見張る。
影を揺らす力は、影をつかまれた瞬間にわずかに止まる。
そのわずかな停滞が、ルナリアには“隙”に見えた。
シェルヴァの肩がわずかに震える。
揺らぎが一瞬だけ止まる。
「……っ!」
「捕まえた……!」
ルナリアは影を媒介にして、シェルヴァの本体の位置を読み取る。
3つの像が揺れている。
前、横、そして背後。
そのうち、“唯一影の根が深く落ちている像”だけが本物。
ルナリアはそこへ手を突き出す。
「影縫い」
シェルヴァの輪郭が、わずかに揺れた。
ほんの僅かな手応え。
しかし──確かに当たった。
シェルヴァは一歩退き、驚いたように胸へ手を当てた。
「……すごいね。“どの私”が本物か……見抜くなんて。」
「影は私の得意分野だから。」
「ふふ……じゃあ……もっと揺らしたくなっちゃうね。」
シェルヴァの影が、今度は四方八方へ伸びた。
まるで“影の迷宮”。
ルナリアは拳を握り、影の軸を固定して立った。
「来なよ。影ごと止めてみせる。」
影の迷宮が広がり、二人の戦いはさらに深みへ沈んでいく。
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