第22話『“流れ”を壊す一手』

雷が散った。

ライゼルの全身を流れる神気が、まるで血のように脈打っている。


向かいでは、イェルダがゆっくりと回転を続けていた。

中心は静止し、外側だけが歪む。

その歪みが、雷の軌道を勝手に書き換える。


ライゼルは大きく息を吸い、肩にまとわりつく雷を指で弾いた。


「“逆流”って言ったな。いいぜ、なら逆流ごと殴り飛ばす。」


回転するイェルダは、変わらぬ調子で告げる。


「速さだけでは勝てない。流れは、方向に従う。正しい向きに、戻る。」


「正しい向きなんざ、俺が決めるんだよ!」


地面を蹴ると同時に、雷が爆ぜた。


雷光が四方八方へ散り、その輝きがさらに“逆方向”へ吸われるように滑っていく。


まるで雷そのものが、イェルダの回転に流されている。


ライゼルは、その現象を目で追いながら呟いた。


「雷が勝手に逃げてんじゃねぇ。“お前の方向”に吸われてんだ。」


とすれば──


対処法はひとつ。


「お前が向けた方向ごと、ぶん殴ればいい。」


ライゼルの口元が吊り上がる。

その瞬間、雷が腕に集中した。


雷逆流束らいぎゃくりゅうそく──!」


軌道の乱れを前提にし、流される方向へあえて雷を乗せる。


まるで川の流れを逆手に取るように、流れの先に拳を構える。


イェルダの回転が一瞬だけ速まった。

雷が別方向へ引っ張られる。

それは、イェルダが“望む方向”。


ライゼルは逆に、その方向へ自ら身体を投げ込んだ。


雷が流される──


同時にライゼル自身も、雷の軌道に合わせて滑り込む。


「……っ、速い!」


イェルダがわずかに揺れた。


雷が吸い寄せられる“その地点”へ、ライゼルの拳がぶつかった。


完全命中──とはいかない。


だが、イェルダの外側の回転が わずかに乱れた。


空気がくぐもったように震える。


「……今の……当たった?」


イェルダは回転を維持しながらも、その中心が微かに揺らいだ。


ライゼルは肩で息をしながら、不敵に笑う。


「雷が勝手に逆走してんじゃねぇ。お前が向けたい方向に流れてるだけだ。なら、その流れに俺も乗るまでだ。」


雷が再び肩に収束する。

先ほどより鋭い、より濃い雷光。


イェルダの回転が深まり、空間の向きがさらにねじれた。


「流れは正しくあるべき。お前は逆らっている。」


「とことん逆らってやるよ。」


ライゼルは前へ踏み出す。


「俺の雷は、俺が決めた方向に飛ぶんだよ!」


雷と方向が衝突し、戦場は再び激しく閃光で満ちた。

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