第21話『雷の軌道』

空気がうねる。

イェルダの周囲には風の気配もないのに、“向き”だけが勝手に変えられていた。


ライゼルは雷を散らしながら、眉をひそめる。


「チッ、やりにくい相手だな。」


イェルダは淡々と回転を続ける。

中心は微動だにせず、外側だけが円を描くように歪む。

その歪みが“向き”だけでなく“雷の流路”すらいじっていた。


「雷は一直線で進む。」


ライゼルが雷気を高める。


「でもお前はそれを曲げるつもりだろ?」


イェルダは回りながら告げた。


「流れは正すもの。お前の雷は、向きが悪い。正しい方向へ……戻す。」


「戻さなくていいって言ってんだよッ!!」


ライゼルの足元から、雷が一気に跳ね上がる。


雷轟走らいごうそう!」


地を斬り、空を裂き、そのままイェルダへ向かう──はずだった。


雷は、なぜか横へ逸れた。


地面が弾け、砂煙が舞う。


「……おいおい、そっちは狙ってねぇ!!」


イェルダは一定の回転を保ったまま、静かに言う。


「歪んでいる。お前の狙いも、雷も。」


「チッ!」


ライゼルは雷を収め、一度距離を取った。


攻撃が通らないのではない。

向きを奪われている。


イェルダの回転は、周囲の空間そのものをゆっくりとひねっていた。


「……なら、雷の速さで押し切るしかねぇか。」


雷が肩に収束し、稲妻が血管のように腕を走る。


「速さを求めても無駄だ。流れは、速さより正しさが勝つ。」


「正しさって何だよ?」


ライゼルの口元が吊り上がる。


「俺にとっての正しさは当たる方向に飛ぶことだよ!」


雷光が、一瞬で空間に広がった。


雷閃脚らいせんきゃく!」


稲妻をまとった蹴りが、直線の軌道でイェルダの胴へ飛び込む。


しかし──


イェルダの回転が、ほんのわずか強まった。


次の瞬間、ライゼルの蹴りは“逆方向”へ滑っていった。


「ッ!?は……!?」


空中で体勢を崩し、地面に転がる。


イェルダは淡々と告げる。


「向きが悪い。お前は逆流している。」


ライゼルが砂を払って立ち上がる。


「逆流、ねぇ。」


拳に雷がまとわりつく。


「なら流れをぶっ壊す雷を見せてやるよ。」


イェルダの回転が、わずかに止まる。


興味か、殺意か──


その揺らぎは読めない。


雷鳴が響き、戦場が再び光で満ちた。

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