第14話『降り立つ“姿なき足跡”』

王都オルディス北区の外れにある林地帯。

普段は鳥の声と風音しか響かない、穏やかな森だった。


だがその日は──


空気が重かった。


リュミエルは胸元の光草ひかりぐさを見下ろした。

いつもなら柔らかな金色に揺れるはずの光が、今日は不気味に脈打っている。


「……光が濁ってる」


ガルザスが大地に手を当てる。


地脈ちみゃくの流れもおかしい。深いところで、誰かが握りつぶしているようだ。」


ライゼルは珍しく黙っていた。

森の奥から漂う“圧”を感じていたからだ。


「なんだよ、この感じ……空気が重いっていうか……押されてる?」


セリオスは真剣な表情で森の中心を見つめていた。


「行くぞ。何かが落ちてきた“痕跡”がある。」


五人は慎重に森の奥へ進んだ。


木々がざわめき、葉が揺れる。

だが風は吹いていない。


森の中心部にたどり着いたとき──


彼らは息を呑んだ。


地面が深く、円形に沈んでいた。


まるで巨大な足が降り立ったかのように。

直径は五十メートル以上。

中心だけが綺麗に押し潰され、周囲には裂け目が放射状に広がっている。


ガルザスが震える声で呟いた。


「……なんだよ、これ。誰かがここに立ったのか?」


リュミエルは光草を握りしめた。

光は激しく揺れ、濁り、震えている。


「……神気が強すぎる!これ、地上の神子のものじゃない!」


ライゼルが顔をしかめる。


「戦獣級の断界種……じゃねぇよな。てか、あいつらが立っても、こんな跡できねぇし。」


セリオスは沈黙していた。

だがその瞳は、はっきりと“確信”を宿していた。


「……これは、“足跡”だ。」


「足跡……?」


リュミエルが震える。


「そう。本体は降りていない。だが、神気だけが世界に触れた。」


ガルザスが小さく唸った。


「神気だけの跡か、これ……」


セリオスは静かに口を開いた。


「おそらく断界種だんかいしゅの──上位階級。“神将級しんしょうきゅう”のものだ。」


森の空気が、ピンと張り詰めた。


ライゼルは乾いた笑いを漏らす。


「は、はは……マジかよ。姿見せずに足跡だけ落としてくとか、何者だよ……」


セリオスはさらに足跡の中心へ近づいた。

ただの地面のはずなのに、近づくほど体が重くなる。


「……強すぎる。本体が降りてきたら、この森ごと消えるだろう。」


リュミエルが不安げに空を見上げる。


「来るの……?本当に?」


セリオスは空の一点を見つめた。


その場所には──


誰の姿もなく、何もなかった。


ただ、


“誰かが見ている気配だけが残っていた。”


「……近い。“地上に降り立つ準備”が始まっている。」


風が止まり、森が静寂に包まれた。

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