第13話『見えざる斬撃』

その日の午後。

王都オルディスの上空は、雲ひとつない静かな青だった。


リュミエルが、光草ひかりぐさ──神気を吸って光へ変換する癒しの植物の手入れをしていると、ガルザスがふと空を見上げた。


「……静かだな。あの不気味な落下も、ようやく止まったか」


「止まったならいいんだけど……」


リュミエルは笑ったが、その笑みは強張っていた。


ライゼルが両手を頭の後ろに組みながら近づく。


「まぁ、あれだけ連続したんだ。ちょっと休憩くらいあっても──」


その瞬間だった。


ゴッ──ッ!!


大気が、


“押し潰されたように”揺れた。


三人は反射的に身構えた。


「いまの……雷じゃねぇぞ……?」


ライゼルの声が低くなる。


ガルザスも大地を踏む。


「地面が……揺れてない。空気そのものが押された?」


リュミエルが震える声で呟く。


「嫌だ……また何か来る……」


ゆっくりと空が揺らぎ、薄いひびが広がる。


だが今回は──穴が開かない。


裂け目はまるで、“向こう側から押されている”ようにびりびりと震えているだけだった。


「……なにこれ?」


リュミエルが一歩後ずさる。


セリオスが駆けつけ、裂け目を鋭く見上げた。


「……まずい。これは、戦獣級のものではない。」


「じゃあ……何なんだよ?」


ライゼルが叫ぶ。


セリオスは声を低くした。


断界種だんかいしゅの…上位階級の“圧”だけが来ている。実体は現れていないが強さの片鱗へんりんだけを押しつけてきている。」


「姿を見せずに……攻撃してるってことか?」


ガルザスの喉が鳴る。


答えるように、裂け目がふっと光った。


次の瞬間──


地面が“切り裂かれた”。


誰も見ていない。

剣も、光も、衝撃もなかった。


にもかかわらず、大地に一直線の深い溝が走った。


リュミエルが悲鳴を上げる。


「な、なにこれっ!?何が……どうやって!」


ガルザスが地に手を当てる。


「斬られた……大地そのものが……!」


セリオスの顔は蒼白だった。


「戦獣級には絶対に不可能。神将級しんしょうきゅう──それ以上の気配。ただの余波で……この威力か。」


「姿も見せずに? マジかよ……」


ライゼルの声から、珍しく軽さが消えた。


風が吹き抜け、裂け目は静かに閉じていった。


何も現れないまま、何も言わないまま、ただ“大地を斬って”消えた。


ガルザスが深く息を吐く。


「……これはもう、落下とは違う。目的がなんだかわからない。」


リュミエルは震える手を胸に当てた。


「……怖い……」


セリオスは裂け目があった場所をじっと見据える。


「……次はもっと違う何かがくる。間違いない。」


風が冷たく通り抜けた。

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