第3話『変わらぬ日常』

対抗戦が終わり、訓練場くんれんじょうの空気は一気にゆるんでいた。


傷ひとつないガルザスが豪快に伸びをすると、周囲の地面が小さく揺れる。


「ふぅ……今日はいい汗かいたな」


「汗なんかかいてないくせに」


リュミエルがくすりと笑った。


ライゼルは雷気を散らしながら、砂まみれの髪を払っている。


「お前の拳、前より重くなってない?本気で当たってたら死んでたぞガルザス!」


「当たらない前提で殴った」


と、当たり前のように言う。


「当たるかもしれないじゃない!」


ルナリアが慌てて口を挟む。

彼女の影が小さく揺れた。


「大丈夫だ」


ガルザスは大きな手でルナリアの頭をぽんと撫でる。


「お前は危険なとき、影が必ず教えてくれるだろう」


その言葉に、ルナリアは少しだけ頬を染めた。


「……そう、だけど」


観測を終えたセリオスが歩み寄り、帳面に神気の揺らぎを書き込みながら言った。


「君たち、試合の後くらい静かにできないのか」


「静かにしてたら退屈だろ?」


ライゼルが肩をすくめる。


「退屈でも秩序ちつじょは維持されるべきだ」


淡々と言うセリオスに、リュミエルが苦笑いを向けた。


「まぁまぁ、セリオス。あなたがいなかったら、この世界は一瞬で滅ぶかもしれないけど…たまには息抜きさせてあげて」


「……滅ばない」


そう言いながらも、セリオスはほんの少しだけ表情を緩めた。


ライゼルがふと思い出したようにルナリアへ顔を向ける。


「そういえば、お前さ…前より影の反応が鋭くないか?」


「……わからない。最近、夜になると少しざわつくの」


「夜?」


リュミエルが首を傾げた。


「うん。まるで、何かを探しているみたいで」


その言葉に、一瞬だけ場が静かになる。


だが次の瞬間、ガルザスが大きな笑い声をあげた。


「ははっ!影が目を覚ましてきただけだろう!それだけお前が強くなってるってことだ!」


「……そう、なのかな」


ルナリアは不安げに微笑む。

影がわずかに揺れたが、その揺れを気に留める者はいなかった。


セリオスは空を一度見上げてから、静かに言った。


「……最近、神気の流れが不安定だ。気のせいであれば良いのだが」


「心配しすぎだって」


ライゼルが笑う。


「ひずみだか何だか知らないけど、来るならぶっ飛ばすだけだろ」


「……むしろお前が原因の可能性もある」


セリオスが冷静に返すと、ライゼルは「ひどっ!」と笑い転げた。


訓練場の空気は、またいつもの日常を取り戻した。


それぞれの神子しんしが笑い、語り合い、

ただ平穏な時間が流れていく。

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