第2話『対抗戦』

朝の光が高く昇ると、訓練場くんれんじょうの中央に大きな円形の陣が描かれた。


今日は神子しんし同士の“対抗戦”。


互いの力量を測り、神気しんきの制御を学ぶための試合だ。


「よし、最初は俺とガルザスだな!」


ライゼルが軽やかに指を鳴らすと、空気がぱちりと弾けた。

雷の気配が彼の周囲を踊る。


ガルザスは腕を組んだまま、まるで岩のように微動だにしない。


「全力で来い。受け止める」


言葉通り、揺るぎない大地の気配が彼の身体から溢れる。


足元の土が静かに隆起りゅうきし、“盾”の形を作った。


観戦側では、リュミエルが手を合わせ、ルナリアが小さく息をのむ。

セリオスは無表情のまま冷静に観測を続けていた。


「では──対抗戦、始め!」


セリオスの掛け声と同時に、雷光が走った。


迅雷閃じんらいせん!!」


ライゼルの姿が閃光せんこうに溶け、一直線にガルザスへ迫る。


しかし──


「ぬるい」


ガルザスが拳を振るった瞬間、大地が咆哮ほうこうした。


岩王壁陣がんおうへきじん!」


大地の壁が幾重にも立ち上がり、ライゼルの雷撃を正面から受け止める。


雷と土がぶつかり合い、眩しい光が弾けた。


だがライゼルは笑う。


「そう来ると思ってた!」


雷光が上空に跳ね、一瞬で背後へ回り込んでいた。


雷殲域らいせんいき──!」


空気が一変し、雷が一点に収束する。


観客席でルナリアが小さく叫んだ。


「危ない……!」


しかしガルザスは振り返らず、ただ静かに拳を握った。


「受け止めると言った」


足元から大地が隆起し、ガルザスの体に沿って岩の鎧がまとわりつく。


雷が降りそそぐ。


土が黒焦げになり、砂塵が舞う。


だがその雲を割って現れたのは──

塵一つつかぬ姿のガルザスだった。


「こっからだ」


低く言うと同時に拳を振り上げた。


崩界衝ほうかいしょう!」


大気そのものが震え、大地の衝撃が津波のようにライゼルへ押し寄せる。


「っとと……!マジかよ!」


ライゼルは空へ飛び退き、ギリギリで衝撃波を避けた。


砂塵が晴れると、二人は静かに向き合っていた。


「ふっ……さすがだな、ガルザス。やっぱり“壁”って呼ばれるだけある」


「お前も速いな。昔よりさらに速くなった」


互いに微笑み、拳を軽く合わせる。

それは戦友の証だった。


その光景を見ていたリュミエルが胸をなでおろす。


「よかった……今日は誰も大けがしなさそうね」


「いや、まだ分からない」


セリオスが淡々と言葉を重ねた瞬間だった。


風が、また震えた。


ほんのわずか。

だが、確かに。


ルナリアが影を震わせる。


「……また、“ひずみ”」


その声に、誰もがわずかに顔を曇らせた。


平和な対抗戦のはずが、どこか“遠くから何かが覗いている”ような寒気があった。

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