第4話『天議の間の集い』

神子しんしたちが呼び出されたのは、訓練でも対抗戦でもない日だった。


王都オルディスの中心──


天議てんぎの間。


原初神が残した巨大な円形ホールで、世界の重要事項が決められる場所だ。


「なんか……空気が重くない?」


ルナリアが小さな声でつぶやく。


「当たり前だろ」


ライゼルが肩をすくめた。


「ここは神族の“会議室”だぞ。騒いだら雷より怖いのが飛んでくる」


「お前の場合は雷が飛んできても平気だろう」


ガルザスがぼそりと言う。


「いや、痛ぇよ!? 見た目で判断すんな!」


そんな軽口が飛び交う一方で、セリオスだけは真剣な目で周囲を観察していた。


「……神気が妙に整い過ぎている。集会にしては珍しい」


「それって、どういう意味?」


リュミエルが首を傾げる。


「わからない。ただ、いつもの集会にしては神気が静かだ」


話している間に、重厚な扉が静かに開いた。


入ってきたのは──


先代神子たちの指導者しどうしゃひかり均衡きんこうを司る女神エルヴィア。


柔らかな白の衣、背に流れる金糸の髪。


穏やかな笑みなのに、その場の空気が一瞬で澄み渡るほどの神気をまとっている。


「みんな、よく来てくれました」


エルヴィアの声は、不思議と胸に染みるような温かさがあった。


「今日は大きな問題ではありません。ですが“世界の見回り(監察任務)”について、皆さんに役割を伝えます」


神子たちがざわめく。


「見回り?」


ライゼルが眉を上げた。


「いつもの巡回じゅんかいじゃなくて?」


「巡回ではありません」


エルヴィアは静かに言葉を重ねた。


「大地の深部、天空の層、海流、森、光と影…世界の“根”が、わずかにざわついています」


その言葉にセリオスの顔がわずかに引き締まる。


「やはり、ひずみの影響か……」


「確証はありません」


エルヴィアは首を横に振った。


「ですが、異変が大きくなる前に、皆さんの力で世界の状態を記録し、確認してほしいのです。危険を伴うものではありません。あくまで観察の任務です」


リュミエルが小さく手を挙げる。


「わたしたちは、何人ずつの組で?」


「三組に分かれます。ガルザスとライゼルは“地と空”を。リュミエルとルナリアは“森と夜”を。セリオスは私と共に“均衡域きんこういき”を視ます」


「……わかった」


セリオスは素直に頷いた。


ライゼルも腕を組み、


「まぁ、ただの見回りなら俺たちで十分だな」


と笑う。


「では、準備を始めてください。今日から三日間、各地を巡って報告をお願いします。些細な変化でも構いません」


その言葉を合図に、神子たちはそれぞれ動き出した。


集会の空気は重々しいものではなく、ゆるやかな緊張と、日常の延長にある“役目”の感覚だった。


エルヴィアは去りぎわ、ふとルナリアの影を見つめたが──


何も言わず、微笑みを返しただけだった。


こうして先代たちは、世界を巡る初めての“任務”へ向けて動き出す。

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