第2話 Here we go Muscle‼
202X年12月24日 都内某所。
――ついに、来てしまったのか。この瞬間が。
周囲の人混みを形成するのは9割がカップル。
いつもならこのような青と白の星型やモミの木型の緑、それを彩る赤や黄色のイルミネーション溢れる幻想的な景色とは無縁のジムでこの日を過ごしているのだが。
今年は何と、この
あっさりとOKを出した俺がどうかしてるんだろうって?
ああうん、それは自分でも思うよ。今でも夢か罰ゲームに踊らされてるんじゃないかとは8割くらい考えてる。
だが、それでも、残りの2割に俺は全BETし今ここにいる。
普段着でいいからね、と言われたものの俺の普段着と言えば『筋肉は裏切らない』だの『筋肉が恋人』だの『筋肉信者』だのとデカデカと書かれたTシャツくらい。
さすがにTPOを
無地の白い、袖が少し長めなニット生地のTシャツの上から襟付きフリースジャケット、裏起毛のついたポリエステル製のボトムス。
自分が美容に気を使うタイプではないのでいいかどうかは分からないが、少なくとも清潔感を出そうとは考えて選んだ。
頭は……一応床屋へは寄ったものの自分でワックスなどを使って整えた事もないのでまぁ変な寝ぐせを直すべく櫛を入れたのみだが。
「お待たせ」
正面から肩掛けの小さな鞄を片手で抑えつつ、例の彼女は現れた。
――うわ、ほんとに来た。
これで少なくとも罰ゲームという予想は消えた……と思っていいのか?
いいんだよな?
ベージュのトレンチコートの下から覗く灰褐色をした薄手のセーターと白い裾が広くなっているボトムスが似合っている。
似合ってはいるけど、素直に『似合ってるね』とは口に出せないのが悲しい。
そりゃ、まぁ。恥ずかしいからね。
「じゃ、行きましょうか」
鞄から取り出した細長い一枚の紙きれを俺に手渡しつつ彼女はそんな事を言う。
そういえば今日どこで何をするのかは『当日のお楽しみ』とずっと秘密にされたままだったのだ。
「ええっとなになに――」
手渡されたのはコンビニで印刷されたであろう、何かのチケット。
書かれた文字に目を通すと――日時は今日、この後すぐ。
場所は世間に疎い俺でも名前を知っているくらい有名な音楽ホール。
だが、最も目を引いたのは――。
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クリスマス・イブの夜に筋肉で盛り上がろう!
~Merry ChristMuscle 202X~
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――めりー、くりすまっする。
その語感の良さとセンスの無さにどうしても緩みそうになる表情筋に力を入れて吹き出すのを堪えてしまう。
「なんです?これ――」
当然の質問を投げかけてみるが、女性は肩をすくめて『イベントよ』とほほ笑む。
今はそれ以上追究するなと言いたげなその口調には明らかに微笑み以上の何かが含まれていると感じる。
「さぁ、楽しいデートの始まりよ」
――やっぱりこれ、デート……って事で良い、んだ。
改まって今日の邂逅をその単語で表現されるといつも以上に隣を歩く女性を意識してしまう。
「ほら、遅れるから急ぐわよ」
そう言ってイベント会場への道を、迷うことなく早足で進む彼女に俺は無言でついていくのだった。
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