第3話 Be My Muscle
『来場の皆様。大変お待たせいたしました。それでは、これよりメリー・クリスマッスル202Xを開催いたします』
開催を告げる場内アナウンスがホールに響き渡ると、舞台へ向けて満席の客が一斉に拍手を送る。
あ、いや。
最前列に近い客はなんかドラミングしてる人もちらほらいる。
ヴィ~~~~~
ステージの幕が上がるブザーと拍手とドラミングの音が交じり合い、イベント名に恥じぬカオスっぷりを冒頭から発揮する会場。
まずは小手調べとばかりに2、3人の筋肉自慢がスポットライトに照らされて次々とポージングを披露しだした。
舞台の上のマッチョマンが動きをピタリと止める度、客席からはまばらな拍手が送られる。
上半身も下半身も、俺なんかよりもすごい盛られていて圧巻だ。
「す、すげぇ――」
ワセリンでテカテカと光る筋肉が、色とりどりのスポットライトに照らされて様々な色の光を会場内に反射させるのはある意味幻想的だ。
――謎のイベント、メリー・クリスマッスル。
その正体は都内近郊の運動部に力を入れている大学のいくつかが合同で開催する、クリスマス・イブを盛り上げるためのイベントであった。
ただし、ステージに立つ人のほとんどは頭に赤いとんがり帽子と赤いブーメランパンツのみと言う恰好だが。
そうやって演目は続いていく。
どれもが、演者の筋肉美を最大限に見せる……いや魅せるための演出てんこ盛りでマッチョ好きには天国のようなイベントである。
おちゃめな舞台上のマッチョマン達が
そしてついに最後の演目。
『では、最後は日本筋肉大学 軽音楽部による演奏です――』
中々かみ合わない二つの単語が組み合わさった気がするが、これは俺の持つイメージがかみ合わないだけか?
そんな風に思いステージを見守っていると。
1、2、3、4……と赤いブーメランパンツを着用し、今ではどこにあるのか分からない日サロで焼いたであろう、こんがり小麦色マッチョマンがずらずらとステージ奥側へと整列しだす。
――おや?
しかし5人目。
最後に登場した彼は――俺よりちょっと筋肉が付いたくらいのガリマッチョ君。
背も低いし、いったいなぜ彼は――。
そんな俺の胸中をよそに、最後にステージに現れたのはミニスカサンタ服に身を包んだ小柄な女性。
女性がステージ中央で一礼をするとステージ上のライトが全て消され、周囲は闇に包まれてしまう。
ペチン
ペチンペチン
ドンッ!ドンッ!
暗いステージ上で何やら筋肉を叩く音が響き始める。
そのただ筋肉を打ち鳴らしていただけの音はやがて一つのメロディーを奏でだす。
こ、この曲はッッ!
――刹那。
ステージに再び光が戻り、バックのマッチョマン+ガリマッチョと小柄な女性の姿が再び顕わになる。
イギリスの伝統的なクリスマス・キャロル――邦題は確か『クリスマスおめでとう』だったか。
そのクリスマスおめでとう、を筋肉だけで演奏している――ッ‼
それも高音、低音を叩く部位で分け、見事なハーモニー、しっかり『曲』として聞こえる。ちゃんと演奏をしている。
なるほど、低音部分はドラミングや足踏みなんかで賄っているんだな。
ボディパーカッションでハンドベルを表現する、中々の発想だ。
ヴォーカルはもちろん中央の女性だが、二節目からはマッチョマン達も一部声を上げ出した。
「「「「「
「「「「「
「「「「「
演奏が終わり、ステージ上の女性がぺこりと頭を下げる。
同時に激しい嵐のような拍手とドラミングが喝采の渦を作り会場全体を飲み込んでいった。
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