第三章 『土俵は水心』

第三章 『土俵は水心』 1話 「新入り」

4月28日


夕方の白羽探偵事務所


口裂け女との一件から2日経ち、白生は背中の傷を魔法によって治し、いつもの日々に戻っていた。魔術師でも初歩的な魔法であれば、誰でも扱えるものであり、鍛錬も必要なく使用可能である。


魔法を学ぶ際には基礎として、世界を構築する素材を分別した古代の理論を基に、魔法使いはまず初めに、火、水、風、土の四つの属性の魔法を修得する。そこから更に陰と陽である、闇と光の属性を持つ魔法を修得するため絶え間ない努力を積み重ねることになる。一生を賭けても光魔法、闇魔法を修得できずに生涯を終える魔法使いもおり、光、闇属性の魔法は上級魔法という扱いを受けている。現代では扱える者の割合がかなり低くいとされている。


魔法とは魔力を消費させ行使する技術である。魔法と魔術の大きな違いは魔法は魔力を消費するだけで使用でき、魔術は魔力を何かに通して行使する技術である。大半の者は身体に刻まれた術式に魔力を通し発動する。あまり違いを感じないかもしれないが、魔術は魔法に比べて魔力の消費が少ない。簡単に言えば、同系統、同じような能力又は効果を持ち、消費する魔力は同じ魔法と魔術を撃ち合うとする、すると結果は魔術の圧勝である。


魔法使い同士の戦いの場合、勝因の大きな要因となる一つは魔力量である。消費する魔力が違えば魔法の威力や精度は段違いに跳ね上がる。他にも勝敗を分けるものはあるが、一番に出てくるのはやはり魔力量である。魔力量の保有量は生まれた時点で決まると言っても過言ではない。修行、鍛錬で魔力量を増やす事は可能だが、生まれ持って絶対的な魔力量を持つ者と同等の域に達するのは途方もない年月を重ねる事でしか到達できないだろう。しかし、生まれ持って膨大な魔力量を持つ者も鍛錬を積んでいた場合は、同じように魔力量が増える。


つまり魔法使いの世界では、天性の才を持つ者には努力でその差を縮める事はできない。


そこで生まれたのが、術式である。少ない魔力でも絶大な威力を発揮する技術。誕生した当初は魔法を式にし、魔力を通し発動するだけの技術だったが、身体に式を刻み込むことで簡単に発動する事を可能にした。近年では、かなりのリスクを抱えるが、術式の式を改良、書き換える事も出来、さらには術式を増やすといった事も可能である。

身体に刻み込む事により、一子相伝の技術にまで昇華する事も可能にした。


さらには、固有の術式を生まれ持って刻まれた者も誕生するようになった。この例が白生翔廻である。生まれ持って回転の魔術の術式を身体に刻まれ生まれた。


そんな彼も側から見ればただの大学生である。そしていつものように大学の講義が終わり、バイト先である白羽探偵事務所に向かうのだった。


探偵事務所に入る。

「おぉ、来たか翔廻。」入るといつものように自分のデスクに座り、白羽探偵は白生に挨拶を交わす。


事務所内の辺りを確認すると探偵以外に人物がいた。


「待ってましたよ!白生さん!」元気な女性の声がする。


声の主は金雀枝媠梨亜えにしだ だりあだった。彼女は、一週間前に依頼で訪れた高校で出会った女性だ。彼女は高校にいた地縛霊に取り憑かれ、学校にいた怪異「赤舌」に襲われ、2日前には口裂け女に呪われるといった、かなり妖の類に好かれた?人物だ。


白生は少し渋い顔をして、「まさか、またトラブルに遭ってるとか?」

「今日は違いますよー!てかなんでそんな嫌そうな顔してるんですか!?」

「別に嫌な顔をした覚えはないんだけど、また怪異とやり合わないといけないのかと思ってね‥」

「あー!まるで私がトラブルメイカーみたいな扱いして!」

「いや、その通りだと思うんだが‥‥」

ハッハッハッと笑いながら白羽探偵「本当に2人は仲が良いなぁ〜青春だな!」

「えぇ〜?そう見えますぅ?」金雀枝はノリよく応える。

「はぁ‥凪翔さん‥‥なんで彼女がいるんですか?」


キョトンとした顔をして白羽探偵が白生の疑問に答える。

「あれ?言ってなかったか?金雀枝ちゃんを新しくバイトとして入れたんだ。」

「はっ?凪翔さん、本気ですか?」

「あぁ、本気だ?」

「白生さん、いや、白生先輩♡」ウィンクしてくる金雀枝。


ウィンクを無視して「凪翔さん、お金とか大丈夫なんですか?」

「あぁ、この事務所は探し物とか素行調査といった普通の業務とは別に色々やっているからな。まぁ金には困ってはないよ」

「凪翔さん、僕が探し物とかしてる間に色々やってたんですね‥」

「翔廻、お前俺がずっとここに座ってるだけだと思ってたのか?」

「‥‥まさか、ははは」乾いた笑いをして答える白生。


「それで2人には行ってもらいたい所があるんだ。」

その言葉を皮切りに白生と金雀枝の物語が始まるのだった。







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