第二章 最終話 「言わぬは花」
白生は玉子神社で談笑し、平と夕食を食べ、別れた。
駅に向かう道中、白羽探偵事務所に向かう。
白生を待つ影があった。
「あ、白生さん!!昼間ぶりです!」
探偵事務所の建物前に待つ人物は金雀枝だった。
「あぁ、大丈夫だったかい?」
「はい、今のところ現れてないです!」
「悪いね、夜に呼び出してしまって」
「いえいえ、呼ばれたのはもしかして‥」
「そう、祓う方法を思いついたんだ。」
「本当ですか!?」キャッキャっと喜ぶ金雀枝。
「とりあえず、祓うにはここじゃ目立つし、場所を移すよ。」
「わかりました!」
「どこに向かうんですか?」
「神社に向かう。」
「神社ですか‥‥」
「場所が重要なんだ。」
「場所‥ですか。やっぱり神聖な場所には何かあるのでしょうか?」
「そうだね、神聖な場所には固有の力がある。妖の類はその力によって弱体化や本領を発揮できなくなるんだ。」
「そうなんですね、まぁそっか、パワースポットって言われるくらいですもんね!」
「確かに、一般の人からも伝わる力があるってことはそれだけ絶大な力が神社には宿っているんだ。」
「ふむふむ、勉強になりますねぇ。」
「それにしても今日は心地いいですね。」
「今日は風もそこまで強くないし、ちょうどいいね。」
上を向く金雀枝「見てくださいよ、白生さん!星が綺麗ですよ!」
瞬間、空気が一変する。
「しまっ!!」白生は瞬時に理解する。
ドクンッ!!凶々しい空気が流れた。
2人の背後にそれはいた。
「この時を、待ってたわ。アヒャ、アヒャヒャヒャ!!!!」大きく開かれた口から発せられる狂気の笑い声。
「なんで?!!私、答えてないですよ??!」
「綺麗という単語を発した瞬間に君を、完全な呪いの対象にした。それに、昼間に見た時よりも呪力量が増えてる。」
「私が綺麗って言った事で、完全な呪いになったってことですか?」
「そうみたいだね。やはり曖昧な存在は危険だね‥‥曖昧な伝承を介しているせいでちゃんとした対処法も、相手の呪いの方法も曖昧だ。」
「もしかして私がワードを言うまで、ずっと姿を隠して近くに潜んでたってこと!?」
「十分考えられるね、どうしたものか。」
「本当に私って綺麗?こんなにボロボロな身体してるのに?」
ブンッ、どこからともなく口裂け女の両手には血に染まった包丁のような刀があった。
「ここでやり合うのは、得策じゃないな‥」白生は周りを見渡しながら話す。
「そうですね、関係のない人が‥‥」
夜ではあるが、まだ深い時間ではない。帰宅中の会社員や塾の帰りの学生などが歩いていた。
「彼女は周りのことなんてお構いなしのようだね。」
ニタァと笑いながら口裂け女は近づく。
確実に一歩ずつ、一歩ずつ。
「アンタの皮膚ちょうだいよ!!」言葉と同時に金雀枝に向けて刀を振る。
振られた刀からは真空波、あるいはかまいたちが放たれた。触れれば只では済まないと見れば理解する。
放たれものは言わば、飛ぶ斬撃である。
皮膚を裂く一閃。
「くっ!!」
白生は金雀枝を抱えながら避けるように飛ぶ。
ザザザァアアア!!スライディングような形で地面を剃る。
白生はクッションになるように金雀枝の下になる。
「大丈夫かい?ケガは?」
「私は大丈夫です!白生さんは?」
「なんとか避けれたみたいだ。」
金雀枝に触れていた白生の手はぼんやりと魔力を纏っていた。
2人は立ち上がり、
「後は任せて、こいつとは僕がケリをつける」衣服の汚れを払いながら白生は金雀枝に言う。
「どうゆうことですか?」
不可解な表情をする口裂け女。
「お前、何をした?」
「どうしたんだい?口裂け女。僕の皮膚じゃ嫌かな?」
「え?え?」キョロキョロしながら戸惑う金雀枝。
「君は口裂け女の呪いの対象じゃなくなった。」
「え?何でですか?」
「キィイイイイイイイイイ!!!」憤怒の雄叫びを叫びながら白生を目指し口裂け女は飛ぶ。
白生は掌に回転のエネルギーを溜める。赤舌との戦闘でも使用した魔術。
無色の弾丸。
ズドォッ!!放たれる一弾。
「!?」その速度に驚きの表情を浮かべる口裂け女。
弾丸は口裂け女に直撃する。
ギャルルルルル!!口裂け女の腹部に直撃する超回転の弾丸。
シュゥウウウウ‥‥焼け焦げたように黒くなる口裂け女の腹部からは煙が出ていた。
「走るよ。こっちだ。」
「え?‥‥はい!」口裂け女を観察していた金雀枝はハッとしたように白生の言葉を理解する。
「今のだけじゃダメなんですか?」
「今のを何発打ち込んだ所で、彼女は再生して何度も襲いかかってくるだけだ。根本的な解決にはならない。」
「じゃあどうすれば!?」
「神社に向かえば大丈夫‥!?」言うと同時に白生の背中に斬撃が、
ズバァ!!
「白生さん!!?」
「うぐっ!!?」
「アヒャヒャヒャ!!当たった?どう?気持ちいい?」最高の笑みを浮かべ、愉悦に浸った口裂け女は歩み寄ってくる。
「大丈夫、ほんの擦り傷さ。急ごう。」
「‥‥はい!」金雀枝は出そうとした言葉をグッと堪えて返事した。
「後少しだ。」
玉子神社に着く。
「ハァ‥なんとか着きましたね」
「あぁ、これで祓える。」背中の痛みを堪えて話す。
「何?ここ。嫌な空気ッ!!」口裂け女は瞬時に神社の神聖な力を感じ取り怪訝な態度を取る。
「一か八か、ハァ‥」白生は息を整えて。
「若々!!遊びに来た!」と大きな声で境内全体に聞こえる声で言う。
「若々?」
カランカランと本坪鈴が鳴る。
「呼んだか?にぃちゃん!」忽然と現れた。
「若々、来てくれたか‥」安堵する白生。
「にぃちゃん、なんか連れてるね。」若々の目線は口裂け女の方に向いた。
「悪いな若々、君に頼みたいことがあるんだ。」
「なんだにぃちゃん、アイツをやっつければいいのか?」腕をブンブン回しながら若々は話す。
「あぁ、出来るかい?」
ニコッと笑い「今日はにぃちゃんに貸し作ったからね!貸しは返す!!」
「何あのガキ」口裂け女は境内に侵入し、神聖な力の圧力に怒りが込み上げていたが、さらに子供の若々の言葉を聞いて怒りが爆発した。
「まずはアンタから剥いでやるよぉおおお!!!」若々に急接近する。
パンッ。若々は手と手を合わす。
たちまち若々から煌びやかなエネルギーが発散される。
キィン。
「ぎゃあああ!!!」項垂れる口裂け女。徐々に彼女の体はボロボロと崩れていく。
「すごいな、これが‥‥」白生は呟く。
「神の力か。」
「ぎぃややぁぁああああああ!!!!」消滅する口裂け女の最後の咆哮。
「これでいいのか?にぃちゃん」
「本当にありがとう。助かったよ。」
「どうゆう事ですか?白生さん。」
「あぁそっか、彼は若々。この神社の神様だよ。」一瞬時間が止まる。
「ぇえええええええええ!!?」驚愕する金雀枝。
「何を驚いているんだ?このおばちゃんは」キョトンとした顔をする若々。
「だって神様ですよ!?」
「まぁ、妖や怪異がいるんだし、神様だっているよ。」冷静に言う白生。
「いやいや、こんな簡単に神様って会えるんですか?」
「確かに簡単には会えないね。まぁ僕だけの力だったら会えなかったね。」
「え?」「僕の大学の友達が偶然、若々と出会ってね。」
「オイラ結構すごいんだぜ!」ピースサインをして自慢げに話す。
「でもオイラ、ちょっと疲れちゃったな‥‥」
「そっか、それじゃあまた今度遊ぼうか。」
「そうだね‥‥にぃちゃん約束だぞ!」
そう言って若々は姿を消した。
「ふぅ、なんとか解決できたね。」一息つく白生。
「大丈夫ですか?白生さんその傷。」
「あぁ。当たる直前に逸らしたからそこまで深くないよ。」
「それにしても今回は厄介だったな。」
「これでもう口裂け女に襲われることはなくなりましたね。」
「どうだろうね‥‥妖や怪異といった存在は、人の恐怖や不安によって生まれると言われている。今ではインターネットやSNSといったものにより、噂話や伝聞以上に伝播は加速し、それにより恐怖や不安はさらに膨大なものになっている。」
「それじゃあ、都市伝説や怪談が存在する限り妖の類は何度でも発生するってことですか?」
「まさに口は災いの元ってことさ。」
「そうなんですね。ということは沈黙は金なりってことですね!?」
「まぁそう言うことだね。これからは無闇矢鱈に怪しい存在とは会話しないことだね。」
「はい!」
こうして白生は金雀枝に取り憑いた口裂け女を祓い、依頼を解決したのだった。
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あとがき
どうも萌内五味です。
第二章『迂闊な言葉に御用心』どうだったでしょうか?
一章に比べてスラスラ書けました。
新キャラを結構出してみました。全然構想がなかったので設定があまり固まってないですが、とりあえず出してみました。
今回は都市伝説妖怪の口裂け女がメインの話でした。前回はかなりマイナーな赤舌という妖怪だったのですが、今回は有名な妖怪を出してみました。この章だけに使うのは少し勿体無かったかもしれません。
もしかしたら再登場するかもしれないです。
狂気的なキャラなので扱い辛いですが、書いてて少し好きなキャラになりました。
後は若々ですね。まさかの神様登場。もっと話が進んでから出した方がよかったかもしれないです。正直全ての事柄を若々に頼めば済んでしまう程の力を持っています。色々序盤に出し過ぎたなと反省。
反省しかない章ですが、読んでいただきありがとうございます。
第3章もよろしくお願いします。
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