第4話 店番

 何かの気配で目が覚めた。師匠が屋根裏部屋に来ることは滅多にないので違うと思う。ぼやける目を擦って辺りを見渡し、人影を見つけた。

 僕のお気に入りのカーペットでコーコルとブラムがくっついて寝ていた。妖精も寝るという新しい発見を横目にテキパキ着替えていく。そして、いつもより気合を入れて厨房に立った。


 「よし、今からアップルパイとガトーショコラの仕込みをするよ!」


 師匠の指示で作業に取りかかる。ここ数日はコーコルとガトーショコラの特訓をしたので自信がある。


 「師匠!チョコレートの確認お願いします!!」


 艶やかなチョコレートが美しく見える。コーコルと初めて会った時のようないい出来だ。


 「お前、最近腕を上げたな。やっと数年間の特訓が効いてきたようだ。」


 やっと褒めて貰えた。師匠の褒め言葉になんだかうるうるしてきてしまう。しかし、泣いている暇はない。開店の時間までめいいっぱい準備した。



 「ご注文お決まりですか〜!?」


 お店が開くと同時に流れ込んでくるお客さんにももう慣れた。対応をしているとブラムが覗き込んできた。


 「おはよう見習いさん!!わぁ!今日は一段とお客さんが多いわね!それにみんなの笑顔、素敵だわ!私まで嬉しくなっちゃう!」


 「おはようブラム!みんな笑顔で食べてくれるから嬉しいよ。コーコルも一緒かな?」

 「ボクなら厨房にいるよ。今日も賑やかだね。」

 「あぁー!!アップルパイ!凄い人気なのね!!私、とっても嬉しい!」


 そんな他愛もない話をしていると、どんどんお客さんが増えていく。あっという間に時間が過ぎ、先にお昼休憩に入らせてもらった。


 「はい、コーコルにはいつものホットチョコ。ブラムは簡単なアップルパイを作ってみたよ。」


 師匠が作るものに比べたらまだまだだが、食べられないことはないはず。そう思いながら自分はパンを1切れ口に運んだ。


 「妖精がボクだけで退屈していたんだ。ブラムが来てくれて良かったよ。キミだって、いつまでもガトーショコラばかりじゃ上達しないからね。」

 「あら?そうだったの。私もみんなの笑顔が見れてとても幸せだわ!!特に、さっきアップルパイを買ってくれた女の子の笑顔!素敵だったわ!!」

 「僕も見ていて嬉しくなるよ。朝から頑張って仕込みをして良かったって思えるんだ!」


 (最近はコーコルのお陰で上達が早い気がする。ブラムも教えてくれたらもっと楽しくなるんだろうなぁ。)


 そんな事を考えていると13時を知らせるチャイムがなった。


 「僕はもう交代だから、2人は好きにしていていいからね!」


 「「はーい。頑張って(ね〜!)」」


 2人に見送られショーケースの前に立つ。今まで辛いことが沢山あったが、それを全て忘れるくらいの笑顔が何より嬉しい。今は師匠の味で笑顔が広がっているが、いつかは僕が繋いでいかなければならない。そう心に決めれば、今日も頑張れる。とりあえず、今は目の前の仕事を一生懸命やっていこう。


 「いらっしゃいませ〜!!」



 「やぁ、ブラム。久しぶりだね。相変わらず元気にしているようで安心したよ。」

 「まぁ!あなたも全然変わってないわね!また会えて嬉しいわ!」

 「本当に。キミはいつも驚かされる。まぁ、そこが気に入ってるんだけれど。」

 「よく言うよ。前はそんな事、一言も言わなかったのにね。甘く見られたもんだ。」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パティスリーレフェクチュール 通りすがりの川合 @gennkaiseisaku_bu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ