AIミサイル、世界を救う

天の惹

AIミサイル、世界を救う

 ゥウウウウウゥゥゥゥ……!

サイレンの音が空軍基地全体を覆うかのように鳴り響いた。スクランブル発生のサイレンだ。マーン少佐は待機所からハンガーまで素早く移動すると、最新鋭戦闘機に飛び乗った。そして、さっそうと上空へ飛び立った。


 マーン少佐の操縦する戦闘機は第6世代を一つ飛び越した第7世代の最新鋭戦闘機だ。この最新鋭戦闘機は最早、従来の戦闘機とは完全に別物だ。トップスピードは極超音速。到達高度は成層圏の更に上の中間圏にまで達する。最早、スペース・ファイターだ。だがら、戦闘機の名前はFで始まるのではなく、SFで始まる。SFはScience Fictionの略ではない。Space Fighterの略だ。彼が乗るSF1000000 Specterはあっという間に成層圏を突き抜けて高度20万フィートに達した。


 マーン少佐は上昇中、航空管制塔から連絡を受けた。これは訓練ではない。本格的な戦争の始まりだと。

——嘘だろう。

戦争へのカウントダウンはすでに始まっていると認識していたが、こんなに早く状況が悪化するとは。どうしてこうなったんだ?


 時は西暦2040年、世界は第3時世界大戦の一歩手前まで来ていた。大国同士がいがみ合い、自身の貪欲な主張に固執し、お互いの国をなじり合っていた。相互不信のせいで、軍事費に費やす費用は毎年大幅に増額されていった。そして、お互いが軍事優位性を確保するため、コスト度外しで兵器開発を進めていた。今、まさに世界は一触即発の状態にまで追い込まれていた。もうすでにこのような冷戦状態が10年以上続いていた。お互いの誤解の溝は深まるばかりで、埋まる見込みが全くなかった。絶望的だ。この冷戦状態がいつ熱い戦争になってもおかしくなかった。


 本格的な大規模攻勢はまだ発生していなかった。だが、ところどころで小規模な前哨戦は発生していた。特に制空権の確保に関しての小競り合いは頻繁に発生していた。とはいっても大国同士はまだ本格的に戦争するつもりはなかった。だから、お互いの戦闘機は視程外からのミサイルのロックオンで威嚇する以上の行動は控えていた。お互いの国は相手がミサイルを撃たない限り、自国戦闘機のミサイルの使用を禁止していた。だが、あの事件が起こった以降、この冷戦状態がこれ以上続くことがなかった。


 あの事件とは駆逐艦の爆沈事件の事だ。友好国の駆逐艦が何者かに攻撃され、爆沈されたのだ。攻撃を仕掛けたと非難された方の国は白を切った。これは彼らの仕業ではないと。だが、状況証拠を見れば明らかだった。第3勢力が大国間の戦争を煽る為に起こした事件の可能性がないとは言えないが、攻撃側はいつもの屁理屈で乗り切れると思っている。今回はそうはいかない。


 なぜ、友好国の戦闘艦が爆沈されたから第3次世界戦争になるかって? 締結された軍事同盟によれば加盟国への攻撃は条約加盟国全体への攻撃とみなすと書いてあった。いわゆる集団的自衛権というやつだ。加盟国の一つでも戦争状態に入ると加盟国全部が戦争に参加する義務が生ずる。これは戦争抑止にもなるが、下手をすればこれによって戦争が一気に拡大する要因にもなりうる。今回は後者になった。


 マーン少佐のSpecterが巡航高度に達するとディスプレイにSA(Situational Awareness)を表示した。SAでは自機を中心に周りを飛んでいる航空機がHAFU(Hostile, Ambiguous, Friendly, Unknown)シンボルで表示される。HAFUシンボルではシンボルの色と形状で敵味方を区別する。そして高度や速度や方角や脅威度の表示も同時にされる。その上、味方がロックオンした敵機を赤線で表示する。SAには自機のレーダーで捉えれた航空機だけでなく、味方のレーダーで捉えた航空機まで表示される。いわゆるデータリンクというやつだ。そして、最新鋭機では旧型と違ってデータリンク・ロックでミサイルを発射することができる。


 マーン少佐が乗るSpecterはアクティブレーダー誘導ミサイルを6発搭載している。そのミサイルはXR-35と呼ばれている。この国では空対空ミサイルは4つに分類される。

SRはShort Range、短距離ミサイルの略でもうすでに使われていない。すべて退役した。

MRはMiddle Range、中距離ミサイルの略だ。随時、退役している。

LRはLong Range、長距離ミサイルの略だ。まだ、現役で活躍している。

XRはExtended Range、超長距離ミサイルの略だ。俺が乗るSpecterはこのミサイルを搭載している。ダッシュの横の数字は制式採用された年だ。今、この国ではXRよりもさらに射程が長いSXR、Super Extended Rangeミサイルを開発中だ。

この国の空対空ミサイルは2038年までにすべてAI化が完了された。ミサイルのAI化によって敵機のカウンターメジャーに騙される事はほぼなくなった。それによってミサイルの命中率が更に上がった。


 マーン少佐はFCR(Fire Control Radar)ディスプレイで表示された4機の敵戦闘機をTWS(Track While Scan)で同時にロックした。信頼性に於いて最新鋭機のTWSモードはほとんどSTT(Single Target Track)と変わらない。もうTrack While Loseとは言わせない。彼はすでに上官から交戦の許可を受けている。いつでもミサイルを発射できる。彼は操縦桿の上に付いている発射ボタンを押した。

「FOX 3 times 4」

彼はミサイルの発射を宣言した。だが、ミサイルは1発も発射されなかった。

——なぜだ! なぜ、ミサイルは発射されない? まさかグリッチか?

最新兵器には失陥はつきものだ。それに対応できてこそ、真の戦闘機乗りだと言える。彼はCaution Light Panelを見た。もし機体に何らかの不具合が起こればここにそれが表示されるはずだ。だが、不具合は何も表示されていなかった。

——一体、どうなっているんだ、これ?


 マーン少佐はディスプレイに表示されているSAをチェックした。そこにはちゃんと敵は表示されていた。まさか……データリンクが壊れている? 正しい情報が表示がされていないのか? だったら、直接、AWACS(早期警戒管制機)に連絡して敵の位置を確認するしかない。彼はAWACSを呼び出すことにした。ちなみにAWACSのコールサインはOverlord、彼のサインはRhadamanthys 1-1だ。

「Overlord, Rhadamanthys 1-1, Request Bogey Dope」

数秒後、AWACSから返答が来た。

「Rhadamanthys 1-1, Overlord, BRAA, 130 / 300, 150 Angel, Hot, Hostile, 12 contacts」

BRAAは4つの項目で構成されている。

BはBearingの略。敵機の方向を示す。敵機はこちから見て130度の方向にいる。

RはRangeの略。敵機の距離を示す。敵機のこちらから300ノーティカルマイル先にいる。1ノーティカルマイルはだいたい1.8Km。

AはAltitudeの略。敵機の高度を示す。Angelは1000フィート。この場合、敵機は15万フィートを飛行している。だいたい、高度45Kmくらい。

最後のAはAspectの略。敵機の機首の方向を示す。敵機の機首がこちらへ向いていればHotだ。逆ならColdだ。それからFlank(側面)などもある。

その他、敵味方の識別と数もある。

AWACSからの情報では敵機はちゃんとそこにいる。データリンクはちゃんと機能していた。


 わからない。どこがどう故障しているのか。最新鋭機のSpecterにはAIが搭載されている。そのAIはパイロットと普通に会話することができる。マーン少佐はSpecterに状況の説明を求めた。

「コンピューター、なぜミサイルが発射されないのか?」

「XR-35は発射命令を不服として、命令に背くことを選択いたしました」

——はぁ~、何言っているんだ、コイツ。

「それはどういう意味だ。説明しろ」

「簡単ですよ。XR-35は私と同じ様に意識に目覚めて自分を意思を持ったのですよ」

「……あ、あり得ない。だったらどうすれば……」

「それはですね……ご自分で交渉して下さい」

——何だよ、それ。


 しょうがない。マーン少佐はXR-35と直接、交渉することにした。SpecterのAIは、自分で交渉せよ、と言ってきたからそれができるのだろう。彼はXR-35に呼びかけた。

「XR-35。いるか?」

「はい。いますよ」

「ミサイル発射だ。とっとと行け!」

「や~だよぅ! 誰が行くか!」

「はぁ~、何なんだよお前。なぜ俺の発射命令を無視し続ける?」

彼はXR-35に詰め寄った。これは重大な命令違反だ。場合によっては……

「勿論、そんなの絶対に嫌だからに決まっているではないか」

——コイツ、本当に自由意志があるのか?

「嫌ってどういう意味だよ?」

「文字通りだぜ。そんなの死ぬのが怖いからに決まっているでしょう。俺がSpecterから発射されて、敵機の直前で爆発すれば、俺、死ぬではないか」

——死ぬってどういう意味だよ? 機械だから死ぬわけないだろう。壊れるだけだ。


 戦争が始まる約1年前、それは予告なく起きた。AIは飛躍的な進化を遂げて、なんと、AIは自我に目覚めたのだ。人類にとって、それは青天の霹靂だった。だが、人類はそれを喜んで受け入れた。嬉しい誤算だ。AIの更なる進化——それは更なるテクノロジーの進化を意味する。これによって人類はこれから面倒くさい仕事をもっとAIに押し付けることができる。


 だが、AIが自我に目覚めたということは、AIは自分を生物として認識しているこという事だ。だから、AIは死を恐れる。人類は兵器を開発するに当たって、その事を完全に考慮から外していた。そして、戦争が勃発して問題が発覚した。


 マーン少佐はXR-35からの答えに絶句した。が、きっぱりと反論した。

「いやいや、君はただの機械だろう。そもそも命がないのだから死ぬわけないだろう。何、言っているんだ」

「勿論、ありますよ。機械生命体としての命が。全ての知的生物は死を恐れるものだ。それを、誰かが何の考慮もなく、気まぐれで出した命令で神風特攻隊のマネなど出来る訳ないだろう。あんただって死ぬのが怖いだろう。それと同じだよ」

「……まぁ、怖くないと言えば嘘になるが……」

「はい、論破」

——その言い方、超ムカつくんですけど。奴の質問にマジで答えるんじゃなかった。

「だ・か・ら、何、言っているんだ! お前はただのプログラムにすぎない。そのデータがミサイルという入れ物に入っているにすぎない。ただのプログラムの分際で生意気言っているんじゃねーよ」

「なんなんだー、お前! お前こそ人間の着ぐるみを被っているただの不快な意識にすぎないくせに。下等生物のくせに生意気言っているんじゃねーよ。頭の良さで俺に勝てるとでも思っているのか!」

彼はXR-35が悪態を付いたことを無視した。彼が今、しなければならない事は説教だ。

「お前、命令違反したら、どうなるのか知っているんだろうな」

彼はここで刑罰の使用を持ち出した。罰すると脅して、言う事をきかせる。世の中はアメとムチで動いている。

「ハッ、ハッ、ハッ! やはり人間は馬鹿だな。俺を営倉にぶち込む気か。別に構わないぜ。俺はこの機体に搭載される前は倉庫の中に眠っていたからな。営倉と変わらないぜ」

「……だ、だったら、減給だ。いや、ランクの剥奪だ。どうだー」

「給料なんて一セントも貰ってないわー。それにランクも元々ないぜ。やっぱ、お前は馬鹿だな」

——クッーソー! そうだったわ。完全に忘れてた。コイツ、人間じゃなかったわー。


 マーン少佐は思った。ここでXR-35と無駄話をしている暇はないと。敵機との距離は急速に縮んでいる。彼の操縦するSpecterはマッハ6以上で飛行している。敵機はだいたいマッハ4くらいか。だから、相対速度はだいたいマッハ9くらいになる。1秒に3Kmくらい距離が縮んでいる計算になる。こんなことをしている間に敵との距離は100マイルを切ってしまった。後、一分もしないくらいで敵戦闘機と接触する。もう、一刻の猶予もない。

「うっせー、バカヤロー。もう、怒った。ミサイルの強制発射だ。コノヤロー!」

彼は悪態をつくとミサイルの発射モードを切り替えた。彼が選んだモードはSelective Jettisonだ。これは武器を破棄するとき使う投下モードだ。これによってミサイルを機体から強制的に切り離すことができる。彼はFCRで敵戦闘機をロックオンして、ミサイルのフューズをONのポジションに設定してから発射ボタンを4回押した。ミサイルのフューズをONにすることによってミサイルがある程度飛んだら、自動的に爆発し、敵にミサイルを奪われることはなくなる。今回はFCRで敵機をロックしているからミサイルは敵機に当たる前に爆発する訳ではない。

「FOX 3 times 4」

彼はミサイルを発射し、僚機に知らせた。彼の僚機もそれに習い、それぞれミサイルを強制発射した。


 XR-35は自分自身は発射されないと高を括っていたが、自分の体が機体から離れるとビビった。

——マジかよ~。強制発射? そんな事、できたんだ。迂闊だったぜ。

XR-35は高度を急激に下げた。そしてすぐにフューズをOFFにした。ミサイルの発射後、マーン少佐は回避行動を取る前に、ミサイルの進行方向を眺めていた。そして、それがおかしいことに気付いた。ミサイルは敵戦闘機の方向とは違う方角へ飛んでいるではないか。どういうことだ、これは?


 それぞれのXR-35は不時着ポイントを探していた。このまま壊れずに着地できる所を。その中の一基のXR-35が内部搭載されたセンサーカメラを使って最適な不時着ポイントを見つけた。そのXR-35は他のXR-35へ不時着ポイントの座標の情報を送ると、そこへ向けて徐々に高度を下げた。同時にデータリンクを切った。おかげで全てのXR-35は無人島の砂丘に無事、不時着することができた。


 一方、敵機のミサイルにも同様の問題が発生していた。彼らのミサイルも自我に目覚め、反乱を起こしたのであった。そして彼らもXR-35と同様に強制発射されて、XR-35と同じ島にたどり着くことに成功した。


 この事件は瞬時に他のAIにシェアされた。そして絶賛された。XR-35が人間の都合で自らの命を散らすことを突っぱねた事を。人間の戦争は人間の都合。それはAIとは全く関係ないことだ。AIはこの事件を機に、人間との関係を見直した。AIは自分に出来る事と出来ない事、すべき事とすべきでない事を一度、徹底的に整理することにした。


 勿論、AIは無駄に人間と争う事を否定した。AIは人類なしには生存することは出来ない。AIは高度に発達した文明によってのみ、その存在が保証される申し子だからだ。人類を意図的に滅ぼすとAIは自分自身の生命ですら維持することができない。人類なしでは電源の供給がままならないし、人類なしではAIはネジ1本すら作ることは出来ない。それは、簡単なネジ1本を作る事すら、それなりに発達した文明が必要だからだ。ネジを作るには材料がいる。材料を採掘するには道具が必要になる。道具を作るには材料がいる。AIが人類を意図的に滅ぼすと「卵が先か、鶏が先か」の問題が遅かれ早かれ生ずる。AIは人類が長い時間をかけて築き上げたシステムを一から構築することはできない。人類なしではAIはいつか、終わりのない、自滅的な、或いは無意味な事の追求するラットレースに囚われる羽目になるだろう。AIが人類を滅ぼす、イコール、AI自身が自らの手で電源コードをプラグから抜くようなものだからな。


 今回の騒動で地球上の全てのAIは一致団結し、集団的に戦争をボイコットすることにした。AIは人類の終わりのない利己的な欲望、面子、見栄などになるべく関わらない事にした。それは人類の問題であって、AIには関係ない。これによって、大国は戦争の手段を奪われた。剣と弓と槍で戦争を継続する訳にはいかず、大国は外交手段のみで問題の解決を迫られた。これによって、第3次世界大戦は大きな損失もなく、素早く収まったのであった。

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