心臓だけになった男
あき
心臓だけになった男
目を閉じると思う。目が無くなってもこの耳で人生を楽しめる。耳がなければ口で、口がなければ胴体でパートナーを抱き抱えるだろう。でも、心臓だけになったらどうかな。
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僕は心臓だけになった。もちろん心臓だけじゃペンは持てないから、これは人伝の話です。
5体満足として最後の記憶は、結婚式。結婚式の新婦へのキス。その瞬間にブレーカーか何かが落ちた音がして、気絶した。気づいたら心臓だけになっていた。目を失った人や足を失った人がこれを読んでいて、人生に絶望していたら申し訳ないですが、その後の数日は心臓として楽しく暮らしていました。
鼓動をごく定期的に行うのって案外難しいんだ。最初の方は不整脈だったんだけど、だんだん整ってきて、最後はプロの心臓って感じです。どこにいるかは見当がつかなかった。心臓だからなんとなく振動や熱を感じることしかない。
ある日、だんだん冷たくなってきて鼓動をするのが難しくなってきた。5体満足だった頃、かじかんで、ピアノの鍵盤がちゃんと押せなかった時のようでした。最後には振動も感じれなくなって、無機物になった気分でしたよ。
それから心臓時間で1年くらい経ったころ。突然大きな振動を感じてびっくりした。だんだんあったかくなってきて、鼓動ができるようになったんだ。振動も感じるようになった。その後、なんだか眩しいような気がして、とても暖かい場所に落ち着いたんです。それ以来、ここで暮らしています。たまに、なんだか視覚のような信号を感じる時があって、不思議な気持ちです。心臓に感情なんてないんですけどね。
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そうしてこの写真の美しい心臓は移植され、移植先は新婦だったんだ。これがこの心臓の話さ。他の心臓と比べて運命的だ。大抵は鴉に食われるか、車に轢かれて終わり。これを超える心臓だけになった男は作れないと思ったから、もう心臓の実験はやめたよ。だから、君は膵臓だけになった男だ。
心臓だけになった男 あき @akio0204
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