美弥視点 気づいていたこと
ずっと前から気づいていた。
凜が誰を見るとき、一番優しい顔をするのか。
——彩花。
あの子だ。
悔しいと思った。
羨ましいと思った。
でも、それ以上に——
胸の奥がずっとひりひりした。
あの子の弱さを見るたびに、
自分が守らなきゃって思ってしまうから。
私が強く見られるのは、
みんなが望んでる“美弥”を演じてきたから。
でも、本当は。
ひとりで震えてる夜のほうが多かった。
あの“視線”を感じるようになってからは、なおさら。
準備室の前にいたとき、私は震えていた。
藤木くんの警告。
誰かに狙われてるという現実。
本当は逃げたかった。
怖くて、涙が出そうだった。
だけど——
もし彩花だったら、どうするんだろう。
そう思ったら、足が止まった。
あの子は弱いのに、
それでも誰かを思って動ける強さがある。
私にはそれがなかった。
だから、少しでも近づきたかった。
あんなふうに“逃げない自分”になりたかった。
その想いが、あの日の私を動かしていた。
真崎が彩花へ向かって走り出したとき、
世界が反転したように感じた。
「彩花!!」
凜の叫び。
彩花の震える背中。
——ああ、そうか。
ここで終わるのは、きっと“私”でいい。
私がいなくなっても、
彩花は凜を支えてくれる。
凜は彩花を守ってくれる。
私がいると、きっと誰かがまた傷つく。
凜も、彩花も、真崎も……みんな壊れてしまう。
だから。
私が、終わらせる。
空が近かった。
風が痛かった。
でも、不思議と怖くなかった。
——あぁ、やっと誰かを守れた。
それだけだった。
泣きそうになるほど、胸が温かかった。
「彩花、しっかりね……」
声にならなかった言葉が、
風の中に溶けていく。
もし願いがひとつだけ叶うなら。
凜。
あなたは、どうか前を向いて。
彩花。
あなたは、どうか自分を責めないで。
私がしたことは、
“犠牲”じゃない。
これは私の選択だ。
初めて、自分で選んだ道なんだよ。
だから——
泣かないで。
二人が未来へ進むための道が、
少しでも明るくなるなら、
それで十分。
『いつか、二人が幸せになりますように。
——美弥』
次の更新予定
雨の教室 すぱとーどすぱどぅ @spato-dospado
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雨の教室の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます