夜の部屋、その感覚を呼び起こす
- ★★★ Excellent!!!
動作や感覚を追っていくうちに、自然と静かな時間の中へ入り込んでいくような一篇でした。
火をつける音や、煙の揺れ、指先の熱といった細やかな描写が重なっていて、読んでいるこちらの呼吸までゆっくりになる感覚があります。
何かを説明するというよりも、ただそこにある時間や空気を差し出してくるようで、思い出や過去といったものも、言葉にされないまま伝わってくる気がしました。
残る一本に手を伸ばさない選択も、読み手の中で余白として静かに広がります。
夜の部屋に一人でいるときの感覚を、そっと思い出させてくれるような読後感でした。