第31話
「はぁ、はぁ、はぁ……」
リオンは荒い息を吐き出し昂った自分の気持ちと身体を落ち着かせる。
そして自分の身支度を整えた。
気を失ったリーゼロッテ嬢の身体は軽く布で清めたが裸体のままベッドに寝かせておく。
深い眠りについているらしくリーゼロッテ嬢が起きる気配はない。リオンの予定通りだ。
すると扉がノックされた。
リオンは慎重に扉に近付き少しだけ扉を開けた。そこにはアーロンがいる。
「時間通りだな、アーロン。中に入れ」
「はい。リオン隊長」
扉を開けるとアーロンが部屋に入って来たがアーロンは一人ではなかった。
肩に意識の無い男性を担いでいる。その男性はリーゼロッテ嬢の元恋人のテリーだ。
アーロンはソファに意識の無いテリーの身体を無造作に置いた。
「はあ、意識の無い男を担ぐのは骨が折れますね」
「誰かに見られてないだろうな。アーロン」
「当然です。そんなヘマはしませんよ。でもこの男が酒の弱い男で助かりました。酒豪だったら薬を使うことも考えたんですが早々に酔い潰れてくれたので楽でしたよ」
「そうか。なら、準備するぞ」
「はい」
リオンとアーロンは酔い潰れて意識の無いテリーの服を脱がせて全裸にする。
そしてテリーを同じく全裸のリーゼロッテ嬢を抱き締めているような体勢でベッドに寝かせた。
これでリーゼロッテ嬢の純潔を奪ったのはテリーという既成事実が出来上がる。
テリーもリーゼロッテ嬢も自分たちの身に起きていることなど知らず眠り続けていた。
リオンは時計を確認する。
「そろそろ最後の仕上げだ。行くぞ」
リオンとアーロンは部屋を出て廊下の柱の陰に身を潜めた。
そのタイミングで今度はジュリアンが女性を連れて廊下をこちらに歩いて来る。
ジュリアンが連れて来たのは社交界でも大の噂好きの公爵家の未亡人のマリア夫人だ。
若くして夫の公爵を亡くした彼女は社交界の「恋」の噂話が大好きで常に「隠れて付き合っている恋人」とか「あの人の愛人は誰々だ」とかの話題を探して歩いているような女である。
既成事実には目撃者が重要。
リオンはこのマリア夫人にその白羽の矢を立てた。
「休憩室がどこもいっぱいなんて皆様「恋」を楽しんでいるのね。良いことだと思いませんか? ジュリアン様」
「ええ。そうですね。でもこの奥の休憩室は使う者はあまりいないので空いていると思いますよ。今夜はその休憩室で私たちの一晩の恋を楽しみましょう」
ジュリアンは一瞬だけリオンとアーロンが潜む柱の陰に視線をやりリーゼロッテ嬢とテリーがいる休憩室の扉を開ける。
「鍵がかかっていないので入っても大丈夫そうですね。どうぞ」
ジュリアンに促されてマリア夫人が部屋の中に入る。
するとマリア夫人はすぐに異変に気付いたようだ。
「まあ! ベッドに先客がいらっしゃるわ。失礼なことをしてしまったわね。……え? あの二人は…ドルレア公爵令嬢にアルヴァハン侯爵家のテリー様?」
「そのようですね。お二人は肉体関係をお持ちの恋人のようですね。お邪魔虫は退散しますか、マリア夫人」
「フフフ、そうですわね。若い恋人の邪魔してはいけませんわね。…でも、あのお二人がねえ、フフフ」
マリア夫人は良いモノを見たとご機嫌になる。
「休憩室がいっぱいなので今夜のマリア夫人との恋は諦めますのでパーティー会場に戻りましょうか」
「フフフ、残念ですがそういたしましょう。ジュリアン様。私もパーティー会場でまだお友達たちとお話したいので…ウフフ」
意味あり気な笑みを零しながらマリア夫人はパーティー会場にジュリアンと戻る。
そしてその夜の間にリーゼロッテ嬢とテリーが肉体関係を持つ恋人だという噂が社交界に広まった。
後日、ドルレア公爵はテリーとリーゼロッテ嬢の婚約を発表した。
純潔を失った公爵令嬢とは結婚できないというイザークの申し出を国王も認めリーゼロッテ嬢との婚約の話は消えた。
ドルレア公爵はテリーに対して怒り心頭だったらしいがテリーは野心家だったので記憶に無くても自分がリーゼロッテ嬢の純潔を奪ったと主張して譲らなかった。
そして自分とリーゼロッテ嬢は将来を誓い合った仲だと社交界で言いふらしたのだ。
テリーとリーゼロッテ嬢の既成事実に関しては既に社交界で知らぬ者はいないので周囲の貴族は二人の関係に好意的な態度を示す。
テリーにしてみたら記憶が無くてもそう主張すれば将来のドルレア公爵になれるのだから当たり前だ。
そして二人の婚約の決め手となったのはテリーとの既成事実の噂が広まった後で真実をドルレア公爵が娘から聞いたからだ。
テリーと肉体関係を持っていると他の者が思っているのにリーゼロッテ嬢とリオンが肉体関係を持ったという事実が明るみになればリーゼロッテ嬢は複数の男性と肉体関係を持つ淫らな公爵令嬢のレッテルを張られてしまうことになる。
そうなると公爵令嬢として誰とも結婚などできない。
そのためドルレア公爵は娘にリオンとの関係は絶対に他言無用だと約束させてテリーとの婚約を決めたようだ。
もしその約束を破ったらドルレア公爵家から追い出し生涯修道院に入れると父親から言われたリーゼロッテ嬢はその後その真実を口にすることはなかった。
王妃は諦められても修道院の暮らしなど嫌だったのだろう。
「今回はリオンの働きでリーゼロッテとの婚約を白紙にできた。さすがだな、リオン」
「お褒めの言葉ありがとうございます。イザーク様の為でしたら今後もどのようなことでも致します」
「そうだな。ドルレア公爵の跡継ぎになったテリーという男は野心家だが頭の中は空っぽだ。ドルレア公爵の権力も弱まる一方だろう。そうすればもう大きな私の敵はいない」
「そうですね。これでイザーク様の王太子の位は安泰かと」
「ああ。だが世の中は何が起こるか分からない。その時はまたお前たち親衛隊の力を借りるぞ」
「御意」
リオンたち親衛隊のメンバーは一斉にイザークに頭を下げた。
王太子の親衛隊 リラックス夢土 @wakitatomohiro
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