第3話

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ロンドン上空は、もはや空ではなかった。

燃え盛る炎と黒煙が渦を巻き、瓦礫と絶望が街を覆う。

空の主――赤竜レッドドラゴンたちが、都市を狩場に変えていた。


「もう終わりだ……」

避難所の地下シェルターで、老いた男性が呟く。

彼の手には、火事で焼け焦げたユニオンジャックの切れ端。


「空軍ももう……全滅だって……」

少女の声が震える。

母親はその肩を抱きながら、涙をこらえて空を見上げた。


――誰もが諦めていた。

そのとき、空を覆う黒煙を駆け抜け多数の航空機が空を舞う。



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――ロンドン防空基地・管制塔


「こちらトーリー基地。レーダーに反応多数!南方より高速接近中!」


「赤竜か!?」


「……違います!識別信号確認!日本空軍です!!」


その報告が響いた瞬間、基地の管制官たちは息を呑んだ。

モニターには、編隊を組んで飛来する多数の機影――

翼に日の丸を刻んだ航空部隊が映し出されていた。


「……日本が、本当…本当に来たのか……」



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――上空:航空自衛隊出撃


「こちら日本航空自衛隊、第三航空群。イギリス空軍、応答願います。」


『こちらイギリス空軍第12戦闘飛行隊、貴国の援軍に感謝する!

この空はまだ、我々のものだ!共に取り戻そう!』


「了解!全機、対竜戦闘モードに移行!燃料と弾薬、出し惜しみするな!」


戦闘機群が雲を突き抜ける。

F-35BとEFタイフーンが並び立ち、蒼天を疾走する。

その奥――紅の巨影。

赤竜レッドドラゴンの大群が、まるで血の雨のように空を染めていた。


「目標、正面11時方向。距離3キロ――突入!」


ジェット音と赤竜の咆哮が轟き、戦闘が始まった。



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――紅蓮の空中戦


ミサイルが閃き、空が閃光に包まれる。

だが、赤竜の鱗は鋼鉄にも勝る。

一撃では落ちない。燃え上がる息を吐き、戦闘機を狙う。


「〈ブルーフォックス1〉、左翼損傷!脱出する!」


「了解、脱出を確認……!」


パラシュートが炎に呑まれた。

機体が爆ぜ、空が血に染まる。


「ちくしょう!怪物めぇ!!」


その瞬間、空の上層に光が奔る。

魔法陣の輝き――空を飛ぶ人影たち。



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――冒険者部隊、参戦


「《飛翔の指輪》、展開完了。空中戦闘可能です!」


空を駆けるのは、空戦特化の冒険者たち。

魔法で浮遊する翼を背に、彼らは竜に肉薄した。


「行くぞォ!!」


「《雷槍乱舞(ライトニング・テンペスト)》!!」


幾千もの雷の槍が赤竜の群れを貫く。

その中を、日本のF-35Bがすり抜けるように突入。

主砲を撃ち放ち、竜の首を吹き飛ばした。


「一体撃墜!――よし、流れが変わったぞ!」


「イギリス空軍、追撃する!《ゴッド・セイブ・ザ・キング》の名にかけて!!」


戦場に響くのはジェット音と咆哮、そして人々の叫び。

蒼と紅がぶつかり合い、空が震えた。



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――赤竜王、降臨


だが――その戦場を切り裂くように、巨大な影が現れた。

雲を割り、太陽を覆うほどの巨体。

その鱗は血のように深紅に輝き、瞳は地上を焦がす。


「識別不能!……まさか………赤竜王クリムゾン・キングか!!??」


全長五百メートル。通常の竜とは比べ物にならない。

一撃で戦闘機三機を薙ぎ払い、空を炎の嵐に変える。


「なんて威力だ……!」


「全機回避!あれを正面から受けるなッ!」


それでも、逃げることは許されなかった。

この空を明け渡せば、イギリスは終わる。

街も、国も、人も――すべて焼き尽くされる。


「こちら日本航空群リーダー、〈アークワン〉。

全機、赤竜王の右翼へ集中攻撃!冒険者部隊、魔法でカバーを頼む!」


「了解!《氷結の嵐(ブリザード・テンペスト)》発動!!」


氷の嵐が竜の翼を凍らせ、F-35がその隙を突く。

ミサイルが貫通し、赤竜王が苦悶の咆哮を上げた。


だが――炎の尾を撒き散らし、なおも墜ちない。


「まだだ……まだ終わっちゃいねぇ!」



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その頃、ロンドンの避難所では。


「……見て、空を……!」


少女が指を差す。

瓦礫の隙間から見える空には、白い軌跡と蒼い光が交錯していた。

燃える竜に向かい、戦う機影。

その中には、日の丸とユニオンジャックが並んでいた。


「……あれは……」


誰かが呟いた。

絶望に沈んでいた人々の瞳に、再び光が宿る。


「戦ってる……!まだ、終わってないんだ……!」


誰かが立ち上がり、歌い始めた。

「♪God save our gracious Queen...」


やがてシェルター全体がその歌で満ちた。

希望は、空へ届く。



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――決着


「これが最後だ――全機、魔法とミサイルを集中させろ!」


「《雷神の裁き(ジャッジメント・オブ・トール)》!!」


轟く閃光。

空が白く染まり、竜の咆哮が途絶えた。

巨大な影が燃えながら墜落し、ドーバーの海へ沈む。


静寂。

雲の切れ間から陽光が差し込んだ。


「赤竜王――撃墜を確認。」


その報告が無線に流れた瞬間、

基地も、街も、避難所も、歓声に包まれた。


「やった……勝ったんだ……!」


誰もが涙を流し、空を仰いだ。

その空には――

再び青が、戻っていた。



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――後日談


この戦いは後に「第二のバトル・オブ・ブリテン」と呼ばれ、

日英両国の勇気と連帯の象徴として歴史に刻まれることになる。


空を取り戻した日。

それは、絶望の空に差した一筋の光――

“希望の翼”と呼ばれた。



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